BAR LUNA
土地の記憶や映画史の遺産を引き継ぎながら、イタリア映画を更新するアリーチェ・ロルヴァケル監督。映画界に彗星のように現れ、最大の理解者である姉で女優のアルバ・ロルヴァケルとの協働で、懐かしくも革新的な作品を発表し続ける。『夏をゆく人 Les Merveilles』(2014年)でカンヌ映画祭グランプリ、『幸福なラザロ Heureux comme Lazzaro』(2018年)で同映画祭脚本賞受賞の快進撃。最新作はやはりカンヌでお披露目された『La Chimère(仮題:キマイラ)』(2023年)で、現在フランスで劇場公開中だ。
今までゴダールやキアロスタミら、映画界の巨匠の展覧会を実現してきたポンピドゥー・センターとのコラボ。ロルヴァケルにとっては初のエキスポ・インスタレーションとなる「月のバー BAR LUNA」(来年1月1日まで)と、映画のレトロスペクティブ上映「アリーチェ・ロルヴァケル、世界の間で夢を見る Alice Rohrwacher, rêver entre les mondes」(12月22日まで)を開催している。
「BAR LUNA」はロルヴァケル監督の映像世界を具現化したインスタレーション。イタリアの演劇カンパニーMuta Imagoと、景観デザイナーのティエリー・ブトゥミの協力のもと、監督が子ども時代を過ごした1980年代イタリアの田舎風カフェを再現。公衆電話やカセットデッキなど舞台装置が味わい深い。オカリナを演奏したり、ベビーフット(テーブルサッカー)やカードゲームに興じる若者もちらほら。
ここでウロウロしていたら、突然女性が近づいてきて「詩はいかがですか」と声をかけられた。お願いしてみると、監督が好きなイタリア人作家アンナ=マリア・オルテーゼの「Le corps céleste」(監督の長編第1作のタイトルと同じ)のページを開き、情感たっぷりに読んでくれた。このパフォーマンスもまた、インスタレーションの一部だという。詩的な文章を来場者に個別に朗読するという贅沢で粋な計らいだ。
暗い奥の空間には野外上映会の再現が。青いミニトラックが移動式映画館「CINEMA LUNA 月のシネマ」となり、オルフェウスとエウリュディケの神話をモチーフとする短編『Le Fil rouge 赤い色』を上映する。この映画は『La Chimère』の番外編的な作品だ。古タイヤを椅子に体育座りで鑑賞し、子ども時代に戻った気分に。隣の部屋にはハンモックが円状に並ぶ。早速寝っ転がって、備え付けのイヤホンを耳にすると、水や鳥など自然の音が流れてきた。他にも星空をイメージした部屋や、映画ポスターの展示室もあった。
イタリアの田舎にタイムスリップしたようなノスタルジックな空間はまるで思い出の宝箱。目を凝らせば細かな箇所まで楽しい仕掛けに満ちている。ロルヴァケル監督は何気ない昔日の日常風景から、遊び心や詩心を引き出す天才だった。(瑞)
展覧会は2024年1月1日まで開催。入場無料。
※ 同館は10月中旬からストを実施中で、何度も臨時の閉館に見舞われてきた。2025年から5年閉鎖されることを不安視するスタッフによるものだが、ロルヴァケル監督の本イベントは12月1日に予定通り無事開幕。ストが良き解決策に至ることを願いつつ、イベント自体は最後まで走り抜けてほしいものだ。
★ポンピドゥー・センター内での映画・ビデオの上映は2023年12月22日まで開催(5€/3€)。
www.centrepompidou.fr/fr/programme/agenda/evenement/rptDoii
Centre Georges Pompidou
Adresse : Place Georges-Pompidou, 75004 Paris , Franceアクセス : Rambuteau/Hôtel de Ville/Châtelet RER : Châtelet Les Halles
URL : https://www.centrepompidou.fr/fr/
展覧会は入場無料。上映会は€/3€) https://www.centrepompidou.fr/fr/programme/agenda/evenement/OWtOkz6