欧州連合(EU)加盟 27ヵ国の代表は10月4日、EUへの移民・難民の増加に対応する新たな協定案に基本的に合意した。9月半ばに、伊ランペドゥーザ島にアフリカからの移民・難民が数日間で約7000人到着したことをきっかけに、移民が到着する国と他の加盟国の間の協力体制の確立が求められていた。
EUの難民受け入れに関しては、ダブリン協定(2013年)により、最初に入国した国で難民申請をすることが規定されており、その後、加盟国に難民受け入れ割当が課されている。しかし、2015年に100万人という不法移民・難民が地中海を超えて押し寄せた際は、ドイツが多くを受け入れたものの、ギリシャ、イタリアなどの最初の入域国が対応しきれなかったばかりでなく、他国の協力が不十分であることが明らかになった。
EUの統計では2022年では約18万人と15年と比べると少ないが、今年夏までにすでに約16万人と地中海経由で入欧する人は増加傾向にあり、流入の矢面に立たされる国々がより効率的な解決策を求めていた。今回の協定案の原案は2020年9月にEU委員長が提案していたが、加盟国の意見が食い違い、交渉がなかなか進まなかった。
今回の協定案では、①EUの境界で難民申請の資格があるか否かを迅速に(原則5日間で)審査して送還も迅速化すること、②これまでは加盟国の難民受入れ割当があったが、実際には受入れを拒否する国があり効率的でなかったため、新協定案では割当受け入れか、金銭的支援か人員やロジスティック面の支援のいずれかを選ぶ方式にすること、③移民・難民の出身国や通過国との協力を強化することが盛り込まれた。
これは、2016年にEUが移民引き取りと引き換えにトルコに60億€を支援したように、その後もモロッコやチュニジアと移民渡航を抑止するよう協定を交わしている(チュニジアは最近、その支援合意を破棄)。EUは現在、リビアやエジプトとの協定も模索しており、この方策をさらに進める意向だ。しかし、この方策は難民の権利を低下させる上、安全が確保されない第3国への送還は非人道的だと人権擁護団体や難民支援団体は批判している。
欧州の右傾化で規制強く
こうしたEUの移民・難民規制強化の意向の背景には、加盟諸国の右傾化がある。メルケル首相時代の2015年に大量の難民を受け入れたドイツで、シュルツ現首相は「現在ドイツに来ようとしている難民の数は多すぎる」と9月末に発言。同国では2015年に連邦議会で無議席だった極右政党が現在では約80議席を占め、移民排除の発言を繰り返している。
ウクライナ難民を100万人受け入れているポーランドは欧州外からの移民は受け入れられないと、ハンガリーとともに今回のEU協定案に強硬に反対。デンマーク、スウェーデン、オーストリア、チェコなどでも移民受入れ反対の声が強い。そしてフランスも、国境での監視を強化しており、伊仏国境に近いマントン市では入国する移民がイタリアに押し戻されている。ダルマナン内相は7日、強制送還される不法移民収容所の収容数を2027年までに現在の倍の3000にすると発言した。
EU移民・難民協定案は今後、EU委と加盟国、欧州議会の間で協議され、来年2月頃に正式発足される予定だ。9月下旬のマルセイユ訪問の際、フランシスコ法王は「(難民の)海での遭難の悲劇に耐えられない」と欧州の「人道主義の文化」を呼びかけたが、果たしてこの願いは欧州諸国の為政者に聞き届けられるだろうか? コロナ禍やウクライナ戦争の影響によるエネルギー危機と物価高の状況にあって、内向き志向と移民排斥を唱える極右が勢力を増しているなか、難しい課題と言わざるを得ない。(し)