国民議会事務局は9月17日、「服従しないフランス」党(LFI)がマクロン大統領に対して提出していた弾劾請求を賛成12票、反対10票で受理した。弾劾には議会の3分の2の議員の賛成が必要になるため罷免が実現する可能性は低いものの、弾劾手続きの第1段階を突破したことには意義がある。
大統領の弾劾について規定した憲法68条および適用規則を定める2014年11月24日法によると、今後、国民議会法務委員会メンバーの過半数の賛成(NFPは半数を有しない)が必要。それをクリアすると、弾劾決議案を審理する両院合同の「高等法院」を設置するために上下院それぞれで3分の2の議員の賛成が必要となる。さらにその後、その高等法院で3分の2の議員が賛成すれば大統領は罷免となる。LFIが上院に議席を持たないことからも、成立する可能性は非常に低い。しかし、パノ国民議会LFI会派会長は大統領の行為について議会で議論する必要があると、その意義を強調する。
与党連合が7月頭の総選挙で第1勢力の地位を左派連合「新人民戦線(NFP)」に明け渡して以来、マクロン大統領はオリンピックなどにかこつけて首相選びを引き延ばし続けた。NFPのほうも当初、首相候補選びにあたっては、連合を構成するLFI、社会党、環境保護派、共産党の意見がまとまらず、7月23日になって経済学者・高級官僚のリュシー・カステ氏を首相候補とすることが決定。しかし、マクロン大統領は、カステ氏を任命してもすぐに国会で不信任決議されると同氏の任命を拒否し、オリンピック後の8月23日からようやく国民議会の各勢力の代表者と協議を開始した。
NFPを構成する社会党や共産党はマクロン大統領と全面対決する戦略はLFIの独断だと反対していたが、マクロン大統領が9月5日に右派共和党のミシェル・バルニエ氏を首相に任命したことから、国民議会事務局の社会党、環境保護派、共産党の事務局メンバーが賛成に回ったため弾劾申請は受理された。しかし、社会党議員は議会での審理では弾劾決議案に反対票を投じると明らかにしている。
これを受けて、LFIは国民議会最大勢力となったNFPの押す人物を任命しないことは民主主義に反し職権乱用だとし、大統領の弾劾請求を出す意向を示し、国民議会議員の10分の1以上の署名を集めて9月4日に提出した。
ここまでこじれたのは、マクロン大統領が総選挙後の第1勢力から首相を任命するという伝統を無視したためだ。LFIメンバーを含む内閣ができればすぐさま不信任決議案が提出され、政治が不安定になるという考えを固持し、LFIと極右の国民連合(RN)を除いた幅広い勢力で政権を発足させようとした。しかし、その幅広い連立交渉には成功しておらず、共和党のバルニエ氏を任命した時点で、左派勢力を取り込むことは困難になった。国民議会で47議席しか持たない共和党と与党連合(166議席)では過半数に満たず、安定した政権運営は難しい。バルニエ首相の組閣が当初の約束より遅れていることからも状況はますます混迷の度合いを強めているようだ。(し)