ビデオカメラを手にした女優の軌跡

「不屈の女神たち。デルフィーヌ・セイリグ、映画とフェミニスト・ビデオの間」展 

–  Les muses insoumises.Delphine Seyrig, entre cinéma et vidéo féministe  –

ベイルート生まれのスイス系フランス人女優デルフィーヌ・セイリグ。ニューヨークの舞台に立つところをアラン・レネ監督に見出され、1960年に『去年マリエンバートで』に主演。映画は翌年のベネチア映画祭の金獅子賞に輝き、たちまち国際的な知名度を獲得した。

その後もトリュフォー、ロージー、ドゥミ、ブニュエル、デュラスら名だたる監督の作品に出演。1990年に肺癌のため58歳でこの世を去ったが、理知的で気品あふれる美貌や、バイオリンの音色のように深みのある声は、今も映画史で独特の輝きを放つ。しかし、彼女は女性の権利向上のために情熱とユーモアを持って活動を続けた闘士であり、男社会に “忖度ゼロ” のフェミニスト・ビデオ作品を自ら制作していたことは、もっと知られても良い事実だろう。

『去年マリエンバートで』ポスター。

現在、フランス北部リールの美術館LaMでは、そんな彼女の足跡を貴重な写真や文書、映像資料などで辿る展覧会「不屈の女神たち。デルフィーヌ・セイリグ、映画とフェミニスト・ビデオの間」が開催中だ。『去年マリエンバートで』ではシャネルのドレスに優雅に身を包んだ女優セイリグ。その完璧過ぎる“美の化身”のイメージを崩すことには苦労したようだが、本作の成功のおかげで映画界に足場を築き、効果的に女性の立場を発信することもできた。

1960年代から70年代にかけ、フランスは中絶禁止法への反対からフェミニズム運動が盛り上がりを見せた時代。セイリグも運動に積極的にコミットした。1974年には先駆的なビデオ・アーティストのキャロル・ルッソプロスに接近。ほどなくルッソプロスらとフェミニスト団体「Les Insoumuses 服従しないミューズたち」を設立し、女性解放を目ざすビデオ作品を手がける。安価で手軽に使えるビデオカメラは、運動の内側に入り込む格好の道具にもなった。

「私は中絶手術を受けた」とする「343人のマニフェスト」にも署名。1971年4月発行の週刊誌ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール誌に掲載された。

アニエス・ヴァルダ監督らとデモに参加するセイリグ© Carlos Santos / Agence Gamma, Rapho & Keystone

『Maso et Miso vont en bateauマゾとミゾは船でゆく』(1976年・ルッソプロスらとの共同監督作品)は、1975年の「国際婦人年」に合わせて企画されたテレビ番組の映像に、辛辣なツッコミを加えたドキュメンタリーだ。当時、女性の地位担当副大臣だったフランソワーズ・ジルーが、女性蔑視的思考丸出しの男性陣を前に男側に取り込まれる様子が映し出される。『Sois belle et tais-toi 美しくあれ、そして黙れ』(1977)は、フランスとアメリカの女優総勢24人にカメラを向けた。顔や胸の整形を提案されたジェーン・フォンダは、「自分は投資される商品であることを悟った」と訴える。

監督作『Sois belle et tais-toi 』現場でマリア・シュナイダーにマイクを向けるセイリグ© Duncan Youngerman

セイリグは女優の仕事においても、多様な女性像を模索し続けた。女性監督たちとの映画のコラボレーションは、男性が押し付ける女性のイメージを超えた豊かな女性像を引き出す。シャンタル・アケルマン監督の『ブリュッセル1080 コメルス河畔通り23番地 ジャンヌ・ディエルマン』(1975)は、自宅で体を売る中年女性の物語。会場ではメイキング映像も上映され、まだ若きアケルマンや現場スタッフらとセイリグの間の緊張感漲るやり取りが興味深かった。

アール・ブリュットの代表的画家アロイーズ・コルバスの作品(左)と、アロイーズに扮するセイリグ。

リリアーヌ・ドゥ・ケルマデックの『アロイーズ』(1975)は、アール・ブリュットの代表的画家アロイーズ・コルバスの半生を描く作品。セイリグが老けメイクも厭わず、精神障害を患うアロイーズに命を吹き込んだ。アール・ブリュット専門美術館の顔も持つLaMは、所蔵作品であるアロイーズの絵画とともに贅沢に映画作品を紹介する。

セイリグは「狂気」と「創造性」の問題にも関心を持ち、元精神患者の女性画家メアリー・バーンズと対談したり、「映画と狂気」映画祭なるイベントも企画、実施した。セイリグのバイタリティには頭が下がるばかりだ。      本展はリールLaMの後、展示を共同制作したスペイン・マドリッドのソフィア王妃芸術センター(Museo Nacional centro de arte REINA SOFIA)に巡回予定(2019年9月25日~2020年3月23日まで)。

また、9月14日にはパリのポンピドゥ・センターで関連企画も開催される(下記参照)。本展のキューレーターとともに、セイリグの活動をふり返る夕べ「Soirée Delphine Seyrig」で、セイリグやキャロル・ルッソプロスの活動を追ったドキュメンタリー『Delphine et Carole, Insoumuses』(2018)が上映されるのだ。監督はルッソプロスの孫娘のカリスト・マクナルティ。本作はベルリン映画祭に招待された後、アルテ局でも放映された評判の作品だ。リールやマドリッドまでは行けないが、セイリグの歩みに興味があるパリ在住者には朗報だろう。(瑞)

リール・メトロポール近現代とアール・ブリュット美術館。カフェ・レストラン、公園などもあるので1日ゆっくり楽しみたい。

Les muses insoumises. Delphine Seyrig, entre cinéma et vidéo féministe
2019年9月22日まで開催

Lille Métropole Musée d’art moderne, d’art contemporain et d’art brut(LaM)
リール・メトロポール近現代とアール・ブリュット美術館
1 allée du Musée 59650 Villeneuve d’Ascq
火~日 10h-18h、月休
一般7€/割引 5€/12歳未満無料
www.musee-lam.fr/fr

■ リール LaMへの行き方
【交通】パリ北駅からリール駅まで列車で約1時間。
リールから地下鉄1番線に乗りVilleneuve d’Ascq-Hôtel de Ville駅下車、
または2番線Fort de Mons駅下車後、ともにバスで L.A.M停留所下車。
www.lilletourism.com

Soirée Delphine Seyrig
ポンピドゥ・センターで2019年9月14日19h-
ドキュメンタリー映画『Delphine et Carole, Insoumuses』を上映予定


Lille Métropole Musée d’art moderne, d’art contemporain et d’art brut(LaM)

Adresse :  1 allée du Musée , 59650 Villeneuve d'Ascq , France
TEL : 03 20 19 68 68
URL : www.musee-lam.fr/fr
月休、10h-18h

 

パスワードをお忘れの場合、OVNINAVI.COMに登録したE-mailアドレスにパスワードをお送りします。登録E-mailアドレスを入力してください。


戻る