『Incroyable mais vrai 地下室のヘンな穴』『Fumer fait tousser タバコは咳の原因になる』など、非凡なブラックコメディで存在感を誇るカンタン・デュピュー監督。ここ数年は驚きの高回転で新作を発表。劇場が舞台の前作『Yannick』は、一時間の小品ながら口コミで半年以上のロングラン。そして息切れする暇もないまま、今月新作が劇場公開される。
主人公はあのサルバドール・ダリ。女性ジャーナリストがインタビューを申し込む。が、この偉大な曲者芸術家はダメ出しが好きらしい。無事にインタビューはできるだろうか。
『Daaaaaali !』とは人を食ったようなタイトルだが、作品内容とマッチしている。なぜならダリを複数の俳優が演じるから。タイトルの “a”の連打のように、とんがりヒゲを付けた俳優が、入れ代わり立ち代わりダリとなり現れる。それもエドゥアール・ベール、ピオ・マルマイら主役級の俳優ばかり。物真似大会のようでもあるが、監督との共犯関係を楽しんでいるのが伝わる。
劇中には時間の歪みや夢オチがたくさん。つまりシュルレアリスムの愚直な映画的実践があるのは侮れない。映画史におけるシュルレアリスム映画の金字塔といえば、ダリ本人が脚本に参加したブニュエルの『黄金時代』(1930年)。当時この映画を見た観客はさぞ度肝を抜かれたことだろう。本作も唖然具合では全く引けを取らない。フォーマット化された映画ばかりの中、ここまで独自路線を頑固に貫き、商業映画として発表できてしまうのは凄みすら感じる。「拒否反応も想定内さ」と含み笑いの監督の顔が目に浮かぶようだ。驚かされたい方は是非映画館へ。(瑞)2月7日公開