今年の春ごろから「住宅危機」という言葉がメディアに頻繁に登場するようになった。住宅ローン金利高、不動産取引の停滞など住宅難に関する報道だ。大都市ばかりでなく中都市圏など広い範囲に見られる現象だという。
11月4日付ル・モンド紙は、本来は難民やホームレスを収容するための家具付き仮設住宅が、住宅難のために会社員向けの仮住まいになるケースが増えており、設置を推進する自治体もあると報じた。国営TVフランス2局でも最近、住宅不足で月給2500€の人がリヨンで部屋を借りられない例や、合わせて月給4000€のカップルが銀行から住宅ローンを断られるといった事例がリポートされていた。ル・モンド紙によると、こうした住宅難の要因はいくつかあるという。
まず、ロシアのウクライナ侵攻以来のインフレの抑制のために欧州中央銀行が昨年から政策金利を再三引き上げ、9月にはついに4.5%になった。2021年末に1.06%だった住宅ローンの金利が今年夏頃から平均4%になったことから、ローン件数がここ1年で44%も減少した。
住宅購入が難しくなったため市場に出る賃貸住宅が減った上、不動産税の引き上げ、エネルギー効率の悪い物件が次第に賃貸できなくなっていること、エネ効率規制を受けない観光客向けの家具付き物件の短期貸し(Airbnbなど)の増加(2021年で18%増)といったさまざまな要因から、賃貸市場に出回る物件数が2019年から23年初めにかけて46%も減少。いきおい、賃貸物件があっても競争は激しく、賃借人の選考も厳しくなる。
こうした住宅難から、家賃の安い社会住宅への入居申込みが増えており、登録世帯数は230万と過去最高に。ところが、社会住宅も建設コストの値上がりなどで新規建設数が減少し圧倒的に不足している。社員が住宅を見つけられない問題を抱える企業は全企業の40%に上るとされ、経営者団体が政府にこの問題に早急に取り組むよう訴えているほどだ。民間新規住宅の建設も資材値上がりで進まず、その建設許可数は2022年10月から23年9月の1年間で28.3%減少した。
貧困者救済団体「アベ・ピエール基金」によると、狭い、不衛生など劣悪な条件の住宅に住む人や住宅のない人は410万人に達し(うちホームレス33万人)、ホテルなどの緊急収容数も不十分。子どものホームレスが全国で2000人もいるというユニセフ・フランス発表のショッキングな数字もある。
マクロン大統領は2017年に住宅5ヵ年計画をスタートしたが、具体的な措置はほとんど打ち出されていない。それどころか、政府の住宅建設・補修への補助金、住宅手当など住宅支援関連予算は2017~21年で46億€減り、21年時点で382億€。具体策としては、ルメール経済相が先月明らかにした、低所得者向けの住宅ローンのゼロ金利措置の対象を中所得者層に拡大し、今年末に予定されていた同措置の終了を2027年まで延長すると明らかにした措置くらいだ。
今後、ホームレスはもちろん、仮設住宅、キャンピングカーなどで暮らす人には辛い季節になる。国民の基本的人権に関わる「住」の問題に政府は本腰を入れて取り組んでほしいものだ。(し)