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フランス映画の一年を振り返るセザール賞は今年で半世紀。その節目の式典が、2月28日にオランピア劇場で催された。セザールの会長はカトリーヌ・ドヌーヴに。夭折した姉のフランソワーズ・ドルレアックを偲び、女性監督に敬意を示し、セザール賞を「ウクライナに捧げる」と語り、開会を宣言した。
今年の覇者はジャック・オディアール監督の異色のクライム・ミュージカル『エミリア・ペレス』。11部門(主演女優賞は2人で計12回)でノミネートされ、うち作品賞と監督賞を含む7部門で受賞した。米アカデミー賞にもお呼びがかかる本作は、トランスジェンダー女優のカーラ=ソフィア・ガスコンが、過去の人種差別的なツイートが発掘されたことで厳しい立場に。騒動後からオディアールはガスコンと距離を置き始めたが、二人の関係の悪さまで生中継されるようだった。
この微妙な空気の中、司会を務めたのがお気楽芸風の芸人ジャン=パスカル・ザディ。冒頭から、「今夜は12ノミネートの『エミリア・ペレス』を迎えるのは嬉しいこと!最優秀監督賞、最優秀作品賞、最優秀女優賞、そして最優秀ツイート!ジャック、笑ってよ」と壇上から呼びかけた。オディアールも思わず顔をほころばすなど、ほどよい緊張のガス抜きとなっていた。
さて、『エミリア・ペレス』は着実に受賞を重ねたが、やはり騒動の余波があってか、主演女優賞はガスコンではなく、ダークホースのアフシア・エルジ(『Borgo』)に渡ってしまった。
大健闘したのが、ボリス・ロスキーヌ監督の『L’Histoire de Souleymane』だろう。フードデリバリーの配達員として働くギニア人不法移民男性を描き、60万人を超えるヒットを記録した話題作。脚本賞や新人男優賞などバランスよく4部門を制した。一方、他の大ヒット作『Le Comte de Monte-Cristo』(ノミネート14・受賞2)、『L’Amour ouf』(ノミネート13・受賞1)、『Unp’tit truc en plus』(ノミネート1)は、セザール賞では苦戦を強いられた。
個人的には、血の繋がらぬ父と息子を描いたドラマ『Le Roman de Jim』で主演男優賞を獲得したカリム・レクルーのスピーチに心が洗われた。強敵を抑えての受賞は本人も予想していなかったようで、即興で対応。他の受賞者が仕事関係者の名前を羅列することが多い中、レクルーは「全ての優しい人々」に感謝をするという、真心に溢れたスピーチとなっていた。
外国映画賞を受賞したのはジョナサン・グレイザーの『関心領域』。監督の代理人が壇上に上がり、「今日、ホロコーストとユダヤ人の安全保障は、ガザでの虐殺と民族浄化を正当化するために利用されている」とメッセージを代読した。会場にいる映画人たちは盛大な歓声と拍手で迎えていたが、どうやらベルリン映画祭よりセザール授賞式の方が、発言の自由は守られているようだ。
最も笑わされたのが、今回特別に作られた「無名のセザール賞」。活躍しているがセザール賞と縁のない不運な俳優たち(ヴァンサン・マケーニュ、ルイーズ・ブルゴワンなど)がノミネートされていた。結局、受賞をしたのは監督で芸人のフランク・デュボスク。超ミニ・セザールの盾を受け取った彼は、「見てくれている妻を思い出します、大きさが重要ではないと」「決して私を起用しないオディアールよ、有難う」「ミニ金熊もほしい」など、自虐的だが寛大なスケッチを巧みに披露し、好感度を上げていた。
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毎回セザールが媚びを売るハリウッドからのお客様は、名誉賞を受賞のジュリア・ロバーツ。スピーチ原稿を忘れてくるなど、緩い感じの参加である。とはいえ、フランク・デュボスクのギャグにも大笑いするなど、感じの良いお客様だった。
今回の授賞式の演出はセドリック・クラピッシュが担当。50周年にしては華やかさに欠けるが、過剰で下品な演出に走らず、ユーモアは忘れず、誰もが落ち着いて楽しめる回に。視聴率は200万人を超え(昨年は184万人)、2020年以降で最高のスコアを記録した。(瑞)
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️第46回セザール賞授賞結果
作品賞:『エミリア・ペレス』ジャック・オディアール
監督賞:ジャック・オディアール(『エミリア・ペレス』)
-主演男優賞:カリム・レクルー(『Le Roman de Jim』)
-主演女優賞:アフシア・エルジ(『Borgo』)
-助演男優賞:アラン・シャバ(L’Amour ouf』)
-助演女優賞:ニナ・ムリス(『L’Histoire de Souleymane』)
-新人男優賞:アブ・サンガレ(『L’Histoire de Souleymane』)
-新人女優賞:マイウェン・バルテルミ(『Vingt Dieux』)
-脚本賞: ボリス・ロスキーヌ、デルフィーヌ・アグ(『L’Histoire de Souleymane』)
-脚色賞:『エミリア・ペレス』ジャック・オディアール
-新人作品賞:『Vingt Dieux』ルイーズ・クルヴォワジエ
-音楽賞: クレモン・ドゥコル、カミーユ(『エミリア・ペレス』)
-撮影賞:ポール・ギヨーム(『エミリア・ペレス』)
-音響賞:エルワン・ケルザネ、エメリック・ドゥヴォルデール、シリル・オルツ、ニエル・バルレッタ『エミリア・ペレス』
-美術賞ステファン・タイヤソン:(『Le Comte de Monte-Cristo』)
-衣装デザイン賞:ティエリー・ドゥレットル(『Le Comte de Monte-Cristo』)
-編集賞:グザヴィエ・シルヴァン(『L’Histoire de Souleymane』)
-視覚効果賞:セドリック・ファイヨル(『エミリア・ペレス』)
-短編賞:『 L’Homme qui ne se taisait pas』Nebojsa Slijepcevic
-アニメーション賞:『Flow』ギンツ・ジルパロディス
-短編アニメーション賞:『Beurk!』ロイク・エスプッシュ
-短編ドキュメンタリー賞:『Les Fiancées du Sud』エレナ・ロペス・リエラ
-ドキュメンタリー賞:『La Ferme des Bertrand』ジル・ペレ
-外国映画賞: 『関心領域』ジョナサン・グレイザー
-名誉賞:ジュリア・ロバーツ、コスタ・ガヴラス
https://www.canalplus.com/articles/cinema/cesar-2025-le-palmares-complet
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