タイル、モザイク、ステンドグラスなどインテリア建材としてのガラスには様々な種類があるが、手作りガラスは大量生産品にはない独特の風合いがあり、人気が高まっている。1925年にパリ郊外モンティニー・レ・コルメイユで創業したアルベルティーニ社は、こうした手作りガラスを昔からの製法で作り続ける欧州3社のうちの一つだ(他の2社はイタリア)。
閑静な住宅街の一角にある同社を案内してくれたのは、4代目のクリステル・アルベルティーニさんと母マルグリットさん。初代のラファエルさんはヴェネチアングラスで有名なムラーノ島で独特の板ガラス製法を開発したが、1920年代初めにファシズムを逃れてフランスに亡命。リヨン在住時にノルマンディーのリジュー聖テレーズ大聖堂の天井や壁のモザイク制作を担当したピエール・ゴーダンからモザイクガラス2500㎡分の注文を受け、現住所に住居とアトリエを構えた。当時の炉は今でも使われており、息子ジュールさん、その息子ジェラールさん、その娘クリステルさんと一家に代々伝わる原料や顔料の調合法を守り続ける。
ガラスは珪砂(けいしゃ)にソーダ灰、石灰などを混ぜて作られる。同社で使うフォンテーヌブロー産の珪砂に混ぜる原料の配合は企業秘密。顔料となる酸化鉱物の配合もノウハウの要で、1500の色を作る全レシピが手帳に記録されているそうだ。これらを混ぜたものをテラコッタ(素焼き)容器に入れ、レンガの炉で1500℃に熱する。19時間かけて赤くドロドロになった溶融ガラスをひしゃくですくって、薄い板ガラスの場合はプレス機で成形し、厚さ約2cmのもの(dalle)は様々な形の金型に流し込んで表面を平らにならす。それらはすぐに500℃に熱した別の炉に重ねて入れ、毎日別の炉に入れ替えて5日間徐冷する。炉を使うのは大体秋0初春なので、残念ながらこの作業は見られなかったが、炉に火が入ると作業場は50℃以上になるので過酷な仕事だ。プレス成形の薄いガラスにカッターで傷をつけてパリンと4枚に切り離す作業をマルグリットさんがアトリエで黙々と続けていた。色とりどりのガラスが壁全面の棚に詰まっているのは壮観だ。
薄いガラス板は浴室や台所の床や壁のタイル、モザイクに、厚いダルはセメント枠のステンドグラス、インテリア装飾、仕切りなどに使われる。色の濃淡もさまざまで、気泡が入っていたり、顔料がよく混ざらないで濃淡の模様ができていたりと、手作りならではの独特な表情と温かみを醸し出している。個人向けの工芸用ガラス板はネットでも販売されているが、ほとんどは個人、建築家、インテリアデザイナー、モザイク作家などの注文を受けての生産だ。昨年は全体をモザイクで覆ったジョージア(グルジア)のカフェの注文でほぼ1年間費やしたそうだ。
クリステルさんはモザイク作家でもあり、敷地内の小さなアトリエでモザイク教室を開催しており、2015年には肖像画のモザイクで国家最優秀職人章(MOF)を獲得。兄のフレデリックさんは教職の合間にランプやサラダボール、オブジェを制作して、ネットや敷地内のショールームで販売している。一般見学も可。(し)