渡部:バティニョールもまた別な店になります。そして将来的にはロンドン、ニューヨークにも店をと。僕はニューヨークへ行きたくて(笑)。今のままで続けていれば、行けると思っています。きっと自分の性に合っているんでしょうね。日本にいた時から同じところにずっとはいない。一つの店を立ち上げたら次の店へ、という具合でしたから。
Q:じゃあ京都にも住まれた?
渡部:いえ、京都には通いました。最初は2週間、それから毎月行って、視察じゃないですけれど、コミュニケーションを取りに行く。仕事であちこちに行けるのが、楽しいんです。それが楽しくて。今は、日本でやってきたことのフランス版です。
Q:日本で一番長く働いたのは、表参道だったんですか?
渡部:いえいえ、表参道は最初だけであとは定位置がないんです。
Q:でも戻る場所がないと困りませんか?
渡部:オフィスは神楽坂でした。でも自分の場合はほとんど現場です。どちらかといえば日本だと新宿の高島屋が長かったのかな。高島屋の13階にある、一番大きな店舗です。あそこにはトータルで3-4年はいましたね。それから横浜にもトータルで3-4年はいました。結局神楽坂には、正味1年か1年半ぐらいです。表参道には1年、銀座には半年。
Q:銀座の6丁目、ってどこにあるんだろう。
渡部:あの有名な小学校、泰明小学校の近くです。
Q:すると帝国ホテルの裏側というか。バカナルのあたり。
渡部:そうです、そうです。オーバカナルの近くです。
Q:話がまた飛びますが、パリに来て、どうでしたか?
渡部:旅行で3-4度来ていましたけれど、住んでみると日本、というか東京よりもすみやすいと思いました。
Q:食材などはどうですか?
渡部:いいですねえ。野菜とか、肉も。僕お肉が大好きなんです。日本よりも安いじゃないですか、毎日、というのは大袈裟ですけれどしょっちゅうcôte de boeufコート・ド・ブフ(リブステーキ)食べています。
Q:パリの人はどうですか?
渡部:色々な国の方がいますし、店でも色々な国のスタッフが働いています。それも楽しいですし、親切じゃないですか、みんな。どうなんですか?僕はまだ2年しかこちらにいないので。
Q:フランス人は取っ付きにくいように見えるけれど、そうでもないかもしれません。
渡部:そうでしょう。最初は取っ付きにくく見えてもそれはこっちの勘違いか考え方なのか、という風に常に分析しています。その辺が勉強になりますね、人をみる、という。日本には社交辞令があるじゃないですか。それがないフランス人は逆に付き合いやすいかもしれないです。最初はどうしても日本人の視点と物差しで測ろうとするけれど、最近は自分の視点を大切に。こっちには日本人としてNGなことっていっぱいあるじゃないですか。だから日本にいる時よりも柔軟に対応できるように努めています。でもそうしているとストレスは溜まりません、まあもともとストレスを溜めるタイプではないんですけれど。
Q:現在は、オデオン店とこちらのお店を行ったり来たりしていらっしゃるということですよね?
渡部:そうです。ただこちらが開いたばかりなので、オデオンよりもこちらにいる時間が今は長いですが、次のバティニョールも立ち上げたらそちらにも行くし、ということで全店舗見なければならない、ということになります。英語だとエグゼクティブシェフなんて言葉がありますね、ただ僕はその肩書きは嫌いなんですけれど。
Q:フランスの食材に触れた今、作ってみたいクレープ、ガレットはありますか?さっき日本ではフランスを出さなければならなかったけれど、こちらでは日本、自分を出せるとおっしゃっていましたよね。
渡部:そうですね、ただそのバランスが難しいです。フランスと言ってもブルターニュだし。
Q:海産物。
渡部:オデオンではすでにlangoustine ラングスティーヌ(手長海老)を使うし、まあ牡蠣はどの店も定番として扱っているし。オマールはさすがに高くて使えませんけれど。あとはアーティチョークとか。鯖なんかは将来的には定番にしたいですね。それからもちろん海藻類、まあすでに使ってはいますけれど。それから味噌も使いたい。9月末に始まるジャポニズムのイベントにうちの店は参加しているので、日本酒に合わせたガレットというのを今考えている最中です。試行錯誤中、これがまた楽しいんです。
Q:ブルターニュにはお塩以外に香辛料ってありましたっけ?
渡部:うーん、海藻はいろいろな形でありますけれどね、ワカメのフレークとか。鰹節もブルターニュで作っているし、和牛だって最近は育てている人がいますし、みんなすごいですよね。自分は常にフランスと日本をどうやって合わせるか、ということを考えています。うちの社長はよくTerre et Merテール・エ・メール(大地と海)と言うんです。
Q:海側は、日本人ということもあるしもう少し面白くできるんじゃないかしら。
渡部:最近は活け締めの店もできましたし、やっぱりパリでも魚が美味しくなきゃダメですよね。それから蕎麦を打つフランス人もいるし。
Q:蕎麦を打つ男性はもともとロバの乳から石鹸を作っていたんですけれど、ブルターニュと同じように蕎麦がたくさん生えるピレネーのそば粉で何かできないか、と思った時にピーンと閃いて日本で蕎麦修行をしたそうです。まあ彼にとっては一つの転機だったんでしょうね。
渡部:そうか、僕は自分で決めないでタイミングを「あっ、来た!」とつかむタイプですね。だから気づいたら20年が過ぎていました。
Q:もしかして渡部さんが日本人スタッフの中でいちばんの古参ということですか?
渡部:そうですよ。ただ東京に僕と同期が2人います。みんな20年選手です。本当に古参ですよ。
Q:これだけ長く働いてこられたのは、やっぱりお仕事が面白かったし、常に動いていたから?
渡部:もちろんです。やることはたくさんあったし、いろいろなお店を立ち上げさせてもらったし、それからベルトランのことは昔から知っていますし、彼の考え方やエスプリには常に刺激されてきましたし。
Q:お二人で仕事をするときにはただ「これやって」ではなくて、もっとキャッチボールをする感じですよね?
渡部:そうです。最初ベルトランは現場で一緒に働いていましたし。
Q:社長もクレープを焼くんですか?
渡部:焼きますよ。僕が入った頃は、休憩に入るスタッフの代わりに焼いていました。昔からいるスタッフは、現場で一緒だったから社長の考えなどをダイレクトに感じることができましたけれど、今のスタッフは触れ合う機会が少ないですから、僕らのように昔からいるスタッフが伝えていかないといけないですね。ベルトランは、昔は1人何役もやっていましたね。今は社長には滅多に会えないじゃないですか。
Q:こんなに大きくなるって思っていましたか?
Breizh Café Montorgueil
Adresse : 14 rue des Petits Carreaux, 75002 ParisTEL : 01.4233.9778
アクセス : M° Sentier
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