渡部:最初は表参道です。
Q:あそこが最初のお店ですよね?
渡部:いえ、最初の店は神楽坂です。1996年に神楽坂でオープンしたんです。あそこは伝統のある、いい下町ですよね。それで、表参道が翌年ですかね。
Q:でも入ったのは、神楽坂ではなく表参道。
渡部:そうです。紹介で入りました。妻のフランス人の知り合いから「人を探している」という話をもらって。ただ僕は最初洗い場として入ったんです(笑)。洗い場、というかcommis見習いですね。洗い物しながら、仕込みをしながら、朝の8時から店に掃除機をかけて夕方の4時に上がる、ということで入ったんです。
Q:料理をしたい、という気持ちはあったんですよね?
渡部:もちろんです。僕はもともとフランス料理に行きたかったんですが、たまたま東京でイタリア料理を始めて、イタリア料理の方が性に合っているのかな、と思ったりもしました。そういうことってあるじゃないですか。シンプルな料理だし。だから洗い場をやりながら、イタリア料理をしようと思っていたんです。そうしたら、人生そんなにうまくいかなくて、1カ月働いた後に社長のベルトランが「社員になりませんか?」と言いまして。本当にタイミングですよね。だから「社員になります」と。そうして気づいたらいつの間にか20年です(笑)。
Q:もしかしてル・ブルターニュに入った時初めてガレットを食べた?
渡部:そうです、それまで僕はガレットの「ガ」の字も知らなかった、本当ですよ。
Q:その時どんな気持ちがしたか覚えていますか?だって蕎麦粉ですよね。
渡部:初めて賄いで食べたのは、トマトとマッシュルームが入ったいわゆる「コンプレ」というやつでした。ハムと卵とチーズとトマトにマッシュルームが入ったものです。その美味しさは今でも鮮明に覚えています。けれども「これ美味しい!」というよりも「これ使える!」と思ったんです。いや、使えるというのは、将来自分で店をやりたいと思っていたので、ただそれがイタリアンだかフレンチだかはわからなかった。そしてガレットを食べた瞬間に「ガレットっていいな」と感じてしまったんです。そういう意味での「使える」です。「あれっ、これいいんじゃない」と思って、そこからは積極的に料理を覚えるようになりました。キャラメルソースも本当に美味しくてね。ただ僕が入った時代には、スタッフのほとんどがフランス人でした、シェフもマネージャーも。だから日本にいながらフランスの店で働いているみたいでしたね。
Q:お店で交わされる言葉もフランス語?
渡部:そうです。なかなか上達しませんでしたけれど、職場はフランス語がメインでした。今は逆転して日本人の方が多いですけれども。そしてフランス人と働く方が日本人と仕事をするよりも自分にとってはやりやすかった。
Q:それはなぜでしょう?
渡部:なぜだろう、まあシンプルですよね。仕事には意識を集中させるけれど、終わったら、ね。メリハリがある。日本人ってちょっと引きずるじゃないですか。変に気を使いすぎる。
Q:じゃあ仕事が終わったらサヨナラ、という感じで一緒に飲みに行ったりはしない?
渡部:いや、ガンガン飲みに行きました。僕も外国人と仕事をするのは初めてでしたけれど、楽しかったです。忙しかったけれども大変ではありませんでした。
Q:入ったときにシェフがいたということは、シェフのアシスタント的な役割だった?
渡部:見よう見まねで、下ごしらえなんかを一緒にしました。まさに見習いですよ。
Q:フランス料理店って朝早くから夜遅くまで働くって皆さんおっしゃいますが、渡部さんもそうでしたか?
渡部:うちの場合は少し違うかな、そういうガチガチの料理店ではないので。朝は9時ぐらいから、そして夜は零時ぐらいまで、まあ拘束時間は長いですけれども、途中で3時間休憩をもらったり。
Q:仕込みは?
渡部:一から店でしていましたね。でも今は店の数が増えてしまったので、セントラルキッチンが神楽坂にあって、そこで材料は仕込んで東京の店に配送しています。
Q:今、東京に何店舗あるんですか?
渡部:今、神楽坂、表参道、そして銀座と新宿の高島屋。それからフランチャイズですけれど恵比寿にも一つ。あとは横浜の赤レンガ倉庫にもあります。それからフランチャイズですけれど名古屋、京都には直営店があって、さらには長野にもあるんですよ。
Q:長野にも!そば処。
渡部:そうです。それから神楽坂には久高(章郎)さん(カンカルにあるTable de Breizhのシェフ)が監修するシードルバーもあるので、結構な数になります。僕は日本にいたとき立ち上げ専門だったので、各店舗の立ち上げをしてきました。まあ、今フランスでしているのも同じことですけれど。日本では厨房のレイアウトをしたりもしました。ジェネラルマネージャーとして、シェフ以外のこともしていました。厨房の設計からベルトランのアシスタントとして業者さんと話をしたり。
Q:同時にお料理も作る。
渡部:そうです。現場にも入ってきました。結構大変なんですけど。
Q:そして若い人も育てる、と。
渡部:そうです、そうです。日々クレーピエ(crêpier、クレープを焼く料理人のこと)の育成をしつつ、店舗展開をしていたんです。
Q:さっき広報のエレーヌさんからサン=マロに学校を開くと聞きました。
Breizh Café Montorgueil
Adresse : 14 rue des Petits Carreaux, 75002 ParisTEL : 01.4233.9778
アクセス : M° Sentier
無休