外光を受けて浮かび上がる素朴な絵柄と深みのある色に目を瞠(みは)らされるステンドグラス。シャルトル大聖堂、パリ・シテ島のサント・シャペルなどフランスには有名なステンドグラスを持つ教会が多数あるが、ホテルや店舗、住宅にも使われるステンドグラスは現代に生きるフランスの文化遺産だ。
キリスト教の芸術であるステンドグラスは4世紀頃から木枠のものが欧州に誕生し、鉛枠のものは10世紀頃に登場した。フランスでは13世紀から各地のゴシック様式の教会で採用されて急速に普及した。19世紀末からはアール・ヌーヴォーで見直され、マティスら20世紀の芸術家の作品もある。そのステンドグラスを制作・修復しているパリ14区にあるアトリエ・デュシュマンを訪ねた。
案内してくれたのは6代目のマリー・ルスヴォアル社長。祖父の曽祖父にあたるフレデリック・デュシュマンさんは全国を巡回するガラスの絵付け職人だった。息子のジョルジュさんと孫のレイモンさんはアール・ヌーヴォーのステンドグラス制作で有名なジャック・グリュベールなどのパリのアトリエで働く。レイモンさんの息子のクロードさんはマティスやルオーがデザインしたステンドグラスを製作したアトリエ・ボニーで働いた後、1952年にパリ10区にアトリエ・デュシュマンを設立。当時は炉を持ちガラスも作っていた。娘のドミニックさんも画家の夫ジル・ルスヴォアルさんの勧めで跡を継ぎ、現代作家とのコラボで創作の幅を広げた。そこに娘のマリーさんとシャルロットさんも加わって今に至る。
1973年から現住所に移ったアトリエでは約10人の職人が働く。新規のステンドグラスを製作するにはデッサンから型紙を起こして、それに合わせてガラスをカットする。様々な色のガラスは仏南東部のガラス工房製作の吹きガラス(筒状ガラスを切ってから熱して平らにする)。透明ガラスに釉(うわぐすり)で絵付け師が絵を描く場合は、約600℃の電気炉で焼いて絵を固定する。模様付きの透明ガラスやグラデーションのあるものなど、一口にガラスと言っても無数の種類がある。次はガラスをはめる溝のついた鉛の枠にガラスを一つひとつはめ込んでからスズで枠同士を固定する。修復の場合は水で洗って汚れを取り、壊れた部分を直したり、ガラスを新しいものに替えたりする。
修復と新規はおよそ半々だが、修復は教会のものは少なく、その他の歴史的建造物のステンドグラスの修復が多い。逆に教会のほうは、政府が現代作家によるステンドグラス制作を奨励しているため、新規の仕事が多いという。建築家、インテリアデザイナー、アーティストといったクライアントとの最初の打ち合わせから完成まで早くて6ヵ月、平均1~2年かかる息の長い仕事だ。
「13世紀から受け継がれてきたノウハウを守りつつ、コンテンポラリーな創作にも力を入れ、ステンドグラス工芸を教える制作を継続していくことが大事」と、マリーさんは言う。フランスにはステンドグラス工芸を教える職業高校もあり、ノウハウは今日まで引き継がれている。デュシュマンのようなアトリエが今後も長く続いてほしいと思う。(し)