国民議会の「服従しないフランス」党(LFI)会派会長のマチルド・パノ議員と欧州議会選挙のLFI候補で法律家リマ・ハッサン氏が4月30日、昨年10月7日のハマスのイスラエル攻撃に関して「テロ擁護」の疑いで警察から事情聴取を受けた。一方、一部の大学ではイスラエルのガザ攻撃の即時停止を求める運動が広がっている。
パノ氏については、ハマスの攻撃を「イスラエルの占領政策の強化という現状におけるパレスチナ武装勢力の反撃」としたLFI会派のコミュニケがテロ擁護の疑いがあるとされた。当時、メランション氏をはじめとするLFI党員の多くはハマスの攻撃を「テロ」と呼ばないことで左派を含む他政党やメディアから批判された経緯もある。パレスチナ系仏人のハッサン氏は昨年11月にネットメディアのインタビューで、ハマスの攻撃を正当な行為とみなすような発言をしたことを「テロ擁護」であるとされた。両者とも欧州ユダヤ人組織(OJE)から告訴されたものだ。10月7日のハマスによる攻撃の後、政府や他の党は「イスラエルは自国を守る権利がある」としてイスラエルへの連帯を表明しパレスチナへの攻撃を容認したが、LFIは、イスラエルがパレスチナを攻撃することは戦いのエスカレートを招くだけとし、交渉による即座の停戦を求めてきた。イスラエル政府による植民地政策も一貫して停戦を求めている。
もともと19世紀に制定された犯罪擁護罪は国家の安全を脅かしたり、火事や略奪などを擁護したりしたという理由で特に左翼活動家や共産党員らを罰するために使われたものだが、2014年の法改正で、これにテロ擁護が追加され、最高で禁固5年および罰金7.5万€を科される軽罪になった。
しかもネット上でテロを擁護・称賛する発言を広めれば禁固7年、罰金10万€と量刑が増す。デュポン=モレティ法相は昨年10月10日、仏政府のイスラエル支援姿勢を受け、「ハマスの攻撃を好意的に評価したり称賛したり、イスラエルに対する正当な抵抗だなどと発言すればテロ擁護罪にあたる可能性がある」と釘をさしていた。
ハマスの攻撃以降、パリ検察局はOJEなどユダヤ人団体から386件の告訴を受けた。まだ捜査中の案件がほとんどだが、先月18日に労組CGTノール県総書記ジャン=ポール・ドレスコー氏に執行猶予付き禁固1年の有罪判決が下った。「(ハマスの攻撃は)違法な占領というおぞましい行為への回答」というデモ呼びかけのビラの文章を作成したためだ。
前出ハッサン氏の弁護士は、「テロ擁護罪はテロ行為を教唆するなど、より重大な行為を対象にする」が、今回問題にされた同氏の発言は「イスラエル政府の政策に対する批判ではあるが、ハマスの行為を擁護したり、正当化するものではない」と反論。社会党系のラファエル・グリュックスマン欧州議員も、「政治的意見の相違は司法で裁かれるべきではない」などと批判。また、アムネスティ・インターナショナルは先月24日に公表した報告書のなかで、フランスのテロ擁護罪の定義は非常にあいまい・主観的であり、言論の自由を侵害する恐れがあるから廃止すべきであると警告を発している。
一方、アメリカ各地の大学でパレスチナを支援するデモが頻発し、学内占拠も起きているなか、フランスでも4月半ば頃からパリほか各地のシアンス・ポ(政治学院)や大学で集会が開かれたり、一部では学内封鎖も起きている。アタル首相は学生の学内封鎖を強く非難し、治安部隊によって迅速に排除する方針を明らかにするとともに、LFIらが扇動する「危険な少数の学生」が大学の機能を麻痺させているなどと、欧州選挙を意識した発言を繰り返した。
昨年10月にはパレスチナを支援するデモが一時禁止されたり、先月半ばにはメランション氏とハッサン氏が予定していたリール大学でのパレスチナに関する講演が大学長とノール県知事によって安全上の問題を理由に中止されるなど、パレスチナ問題について論じることがタブー視されている感がある。
パノ氏が「テロ防止対策が政治活動家や市民運動家、労働組合員に対して行使される国は、どういう民主主義国家なのか?」と辛らつに批判したように、本来、イスラエル政府の政策を批判することは言論の自由の範囲内であり、反ユダヤ主義ではないはずだが、それが故意に混同されているとの疑問を抱かざるを得ない状況になっている。(し)
左派LFI議員ら、テロ擁護で事情聴取。政治問題を司法で解決?
国民議会の「服従しないフランス」党(LFI)会派会長のマチルド・パノ議員と欧州議会選挙のLFI候補で法律家リマ・ハッサン氏が4月30日、昨年10月7日のハマスのイスラエル攻撃に関して「テロ擁護」の疑いで警察から事情聴取を受けた。一方、一部の大学ではイスラエルのガザ攻撃の即時停止を求める運動が広がっている。
パノ氏については、ハマスの攻撃を「イスラエルの占領政策の強化という現状におけるパレスチナ武装勢力の反撃」としたLFI会派のコミュニケがテロ擁護の疑いがあるとされた。当時、メランション氏をはじめとするLFI党員の多くはハマスの攻撃を「テロ」と呼ばないことで左派を含む他政党やメディアから批判された経緯もある。パレスチナ系仏人のハッサン氏は昨年11月にネットメディアのインタビューで、ハマスの攻撃を正当な行為とみなすような発言をしたことを「テロ擁護」であるとされた。両者とも欧州ユダヤ人組織(OJE)から告訴されたものだ。
もともと19世紀に制定された犯罪擁護罪は国家の安全を脅かしたり、火事や略奪などを擁護したりしたという理由で特に左翼活動家や共産党員らを罰するために使われたものだが、2014年の法改正で、これにテロ擁護が追加され、最高で禁固5年および罰金7.5万€を科される軽罪になった。しかもネット上でテロを擁護・称賛する発言を広めれば禁固7年、罰金10万€と量刑が増す。デュポン=モレティ法相は昨年10月10日、仏政府のイスラエル支援姿勢を受け、「ハマスの攻撃を好意的に評価したり称賛したり、イスラエルに対する正当な抵抗だ」などと発言すればテロ擁護罪にあたる可能性があると釘をさしていた。ハマスの攻撃以降、パリ検察局はOJEなどユダヤ人団体から386件の告訴を受けた。まだ捜査中の案件がほとんどだが、先月18日に労組CGTノール県総書記ジャン=ポール・ドレスコー氏に執行猶予付き禁固1年の有罪判決が下った。「(ハマスの攻撃は)違法な占領というおぞましい行為への回答」というデモ呼びかけのビラの文章を作成したためだ。ハッサン氏の弁護士は、「テロ擁護罪はテロ行為を教唆するなど、より重大な行為を対象にする」が、今回問題にされた同氏の発言は「イスラエル政府の政策に対する批判であり、ハマスの行為を擁護したり、正当化するものではない」と反論。社会党系のラファエル・グリュックスマン欧州議員も、「政治的意見の相違は司法で裁かれるべきではない」などと批判。また、アムネスティ・インターナショナルは先月24日に公表した報告書のなかで、フランスのテロ擁護罪の定義は非常にあいまい・主観的であり、言論の自由を侵害する恐れがあるから廃止すべきであると警告を発している。
一方、アメリカ各地の大学でパレスチナを支援するデモが頻発し、学内占拠も起きているなか、フランスでも4月半ば頃からパリほか各地のシアンス・ポ(政治学院)や大学で集会が開かれたり、一部では学内封鎖も起きている。アタル首相は学生の学内封鎖を強く非難し、治安部隊によって迅速に排除する方針を明らかにするとともに、LFIらが扇動する少数の学生が大学の機能を麻痺させているなどと、欧州選挙を意識した発言を繰り返した。
昨年10月にはパレスチナを支援するデモが一時禁止されたり、先月半ばにはメランション氏とハッサン氏が予定していたリール大学でのパレスチナに関する講演が大学長とノール県知事によって安全上の問題を理由に中止されるなど、パレスチナ問題について論じることがタブー視されている感がある。パノ氏が「テロ防止対策が政治活動家や市民運動家、労働組合員に対して行使される国は、どういう民主主義国家なのか?」と辛らつに批判したように、本来、イスラエル政府の政策を批判することは言論の自由の範囲内であり、反ユダヤ主義ではないはずだが、それが故意に混同されているとの疑問を抱かざるを得ない状況になっている。(し)