アレックス・サンジェ社は、1938年にハンガリー移民のロードレーサー、アレックス・サンジェさんがルヴァロワ・ペレの現住所に店とアトリエを構えたのが始まり。旅行用やタンデムを中心に3人の職人とともにフレーム、ブレーキ、変速機まで製造し組み立てていた。自転車黄金時代1940年代の一時期は8人の職人を抱え、ほとんどの部品を自分たちで作り、年間100台以上製造していた。パラレログラム式外装変速機を開発するなどフランスでも3本の指に入る自転車作りの名人といわれたアレックスさんの死後(66年)は甥エルネスト・シューカさんが会社を引き継いだ。現在は彼の息子のオリヴィエさんと職人の2人で、オーダーメイドのコンペ用、スポーツ用、旅行用、街中用の自転車を年25台製造(通算3535台)。古い自転車の修理・修復依頼も多い。
同社はフレームやステム(フレームとハンドルをつなぐ部分)、一部のブレーキを自社製造し、他の部品は世界各地から最高のものを輸入して組み立てる。「自転車の本体はフレームで、最も重要なもの」とオリヴィエさんはいう。ロードレースでは軽いカーボンフレームが主流だが、同社ではスティールフレームにこだわる。「スティールは耐久性と振動吸収性が高く、フレームには最適の金属」だからだ。薄くて強度が強い英レイノルズ社の高品質鋼管をオーダーに合わせて設計したフレームとステム部品ごとに切り、ハンダ付けしてから丁寧にやすりをかける。残念ながら組み立て工程は見られなかったが、店に飾られている自転車はとにかくスマートで美しい。約60㎡のアトリエの天井には自転車や車輪が所狭しとぶら下がり、無数の部品が壁をおおっている。オリヴィエさんは1970年から仏自転車旅行連盟 (FFCT)のメンバーで、自社でツーリングも企画している。根っからのサイクリストなのだ。(し)