
英仏海峡を仏側から英国側に小型ボートで渡る不法移民をフランスが引き取ることに合意した。マクロン仏大統領は7月8~10日に英国を国賓として訪問した際、移民引き取りのほかにも、核抑止力で仏英が協力することなどでも協定を結んだ。
生命の危険を顧みず英仏海峡をフランスから英国に向けて小型ボートで渡る人は、カレーのフェリーやユーロトンネルの監視強化が始まった2018年頃から増加傾向にあり、今年に入ってからはすでに2万1000人(昨年同時期より50%増)が英海岸に到着した。2024年では到着したのが3万6816人で、76人が海で命を失った。
英国の前保守党政権はルワンダに不法移民を移送・収容する策や、英国の港に浮かぶ移民収容施設などの措置を打ち出したが、人権上問題があるとして反対意見も多く、現労働党政権はルワンダ移送は取りやめた。そこで、2016年から数年間にわたりギリシャの海岸に漂着した不法移民を欧州連合(EU)がトルコに代償(60億€)を払って引き取らせたように、英が難民として受け入れられない移民(「安全」とされる国から来た人など)をフランスが引き取ることで合意。ただし、一人引き取るごとに、英国で難民受け入れが可能な国籍の在仏移民を一人、英国が受け入れることが条件だ。週50人程度の受け入れという数字が報じられているが定かではない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は適切に運用されれば難民保護になると歓迎したが、国境なき医師団は、この措置は国境閉鎖の論理に基づいており、ばかげている上に「非常に危険」と批判。大した効果の得られなかったEU=トルコ間の協定の二の舞になる恐れもある。オー・ド・フランス地域圏議会のベルトラン議長(共和党)は、英国が移民を選び仏はそれを受け入れるという不利な協定と批判。いずれにせよ、仏独自で結んだ協定であるため、マクロン大統領はこの協定にEUの承認を求める意向で、実際の受け入れ開始にはやや時間がかかりそうだ。
さらに英仏は両国の核抑止力を連携させることでも合意した(欧州の核保有国は英仏のみ)。核抑止の姿勢や互いの核の力の独立性の確認、不拡散などを骨子とした両国の協力協定はすでに1995年に結ばれているが、今回は核兵器に関する戦略や機動力の分野で一歩進んだ連携にシフトする。たとえば、原子力潜水艦による共同パトロールや、仏の核ミサイルを英軍機で運ぶといった訓練なども想定されているという。
それに加えて、仏英共同開発の空中発射巡航ミサイル「SCALP-EG/ストーム・シャドウ」の生産再開、後続モデルの開発、そして対艦巡航ミサイルの共同開発でも同意した。こうした仏英間の合意も含め、EUと英国が連携していく防衛産業強化はロシアに対する抑止力増強になる。ウクライナ戦争が停戦となった暁には平和維持部隊として仏英両国が計5万人まで派兵することも想定されている。国際情勢が大きく変化した今、英国のEU離脱を乗り越えた両者の協力が進んでいる。(し)
