『Nobody’s Watching』
ニコはアルゼンチンでは名の知れた俳優。映画出演の話を信じ、ニューヨークにやってきた。人のよい彼は、無償で知り合いのベビーシッターも引き受ける。だが、たちまち生活は困窮。映画の企画も雲行きが怪しい。赤ちゃんと一緒だから、オーディションに行くのもひと苦労。なんだか本末転倒だ。
やがて女性プロデューサーと面会へ。「髪を切って」「発音矯正のコーチをつけて」。やはり、ここではアメリカで活躍できる外国人俳優の「型」にはめられてしまう。
世界が憧れる摩天楼の街。観光客としての滞在は心が躍る。だが、定住して居場所を見つけるのは、よそ者には難しい。フランスで生活する人が多いオヴニー読者には共感できる実感だろうか。
監督はニューヨークで活躍するアルゼンチン人のジュリア・ソロモノフ。「外国に住んだ時に得るものと失うものについて示唆したかった」と語る。外国で苦労した監督本人の経験も反映されている。
さてニューヨークのニコは、タイトル通り「Nobody’s Watching 誰も見ていない」状態にある。俳優だった彼を見つめるカメラもない。しかし、彼を写すカメラがひとつ、それが監視カメラだ。赤ちゃんを抱えたニコはスーパーに入って万引きし、最後にはカメラに向って挑発のポーズ。しかし物事は何も変わらない。監視カメラでさえ、実際は何も見ていぬ空虚な視線なのだ。
やがて、彼のニューヨーク行きの本当の理由も明かされるだろう。迷える異邦人俳優の決断はいかに?アルゼンチン、コロンビア、ブラジル、アメリカなど、共同製作国だけで7カ国が結集。日常目線の小品ではあるが、宙ぶらりんな異邦人のアイデンティティに友人のように寄り添ってくれる、サンパな秀作だ。(瑞)