フランスの磁器といえば、王立製陶所だったセーヴルやリモージュの磁器を思い浮かべる人が多いだろう。それほど有名ではないが、仏中部のベリー地方も19世紀半ばから磁器産業が盛んで、メアン・シュル・イエーヴル (以下メアン)では1818年創業のピリヴイッツ社が磁器を作り続けている。ホテルやレストランなどの業務用を中心とするシンプルでエレガントな白食器だ。
ブルジュから20km西にあるメアンはシャルル7世の城で有名な中世の町。2つの塔を残す城跡の隣にピリヴイッツ社は7haの広大な敷地を持つ。1818年この地に製陶業を起こしたのはスイス人ジャン=ルイ・リシャール=ピリヴイッツ。息子のシャルルはアルフォンス・ラマールら装飾芸術家を招いて工場内にアトリエを持たせ、通常の製品の他に創作磁器を創らせてパリ万博で数々の賞を受賞し、国際的評価を獲得した。
ベリー地方には第1次大戦前には配管、トイレ、絶縁碍子(がいし)などの製陶も含めて100近い製陶所があったが、戦争の痛手とドイツの同業者に押されて衰退し、ピリヴイッツ社も1946年にスイス資本に売却。2001年に司法再建となり、現在は複数の投資家が株主だ (6代目のベルトラン・ピリヴイッツ氏も)。
フランス人にはお馴染みの、皿の縁やボールの外面にプリーツ模様が浮き出た「Plissé」 はピリヴイッツが1900年に考案したもので、今でも看板商品。最近ではデザイン会社SISMOと共同でアシンメトリーなうねりのある 「canopée」など、常に時代を先取りするデザインを提案してきた。
さらに、直火に耐えるココット鍋や、クッキングヒーターに対応する湯沸かしポット、アルミナ強化タルト型など技術革新にも力を入れる。皿やカップも含めて全製品-30℃から350℃まで対応する。
ピリヴイッツはカオリン、長石、石英、粘土(国内産ほか英、ノルウェーから輸入)を混ぜて自社で磁土から作る。デザインからの型起こし、石膏の母型作りも全くの手作業。成形方法には粘土状の磁土を型に入れて成型する方法、液状の磁土を型に流し込む方法などがある。
単純な形状のものは成型から研磨まで自動機械でやるが、ボウルなどは今でも一つ一つ手作業で研磨してなめらかにする。乾燥後に素焼きし(980℃)、釉をかけてから本焼き (1400℃)。飾り付け、カップの持ち手付け、皿の縁取りなど手作業でする部分と機械化された部分が混在するのが印象に残った。
ピリヴイッツの製品は業務用と家庭用が半々だが、仏国内では8割が業務用。故ポール・ボキューズらのシェフに愛用され、レストランのロゴを入れた注文品も受けている。輸出が6割を占め、今年で創業200周年を迎えたピリヴイッツは年商1400万ユーロ、社員190人の安定した企業になった。
工場を案内してくれたクレール・カルヴァラン生産部長に最も重要なノウハウは何かとたずねると、「製品づくりに関わる人たちの一つ一つの所作。すべてのノウハウが大事」と、無形文化財企業(EPV)らしい答えが返ってきた。(し)
工場併設のショップ:
2 avenue de la Manufacture
18500 Mehun-sur-Yèvre
月~土:10h-12h/14h -18h30(月は午後のみ)
シャルル7世美術館:
ピリヴイット社の、19世紀からの作品が展示されている。
Musée Charles VII – Pôle de la porcelaine
Rue des Grands Moulins
18500 Mehun-sur-Yèvre
Pillivuyt
Adresse : 2 avenue de la Manufacture, 18500 Mehun-sur-Yèvre , FranceURL : http://shop.pillivuyt.fr