クリスマスイブの晩餐、会食やロマンチックなディナー、そしてインテリア装飾としても、フランス人の生活にキャンドルは欠かせない。照明用具としては使われなくなった今も、カトリック教会では儀式に欠かせないし、室内にほのかな香りを漂わせるアロマキャンドルも人気商品だ。そのキャンドル製造で世界最古の歴史を誇るというシール・トリュドン (社名はCIR社)の工場をノルマンディーに訪ねた。
トリュドンはクロード・トリュドンが1643年にパリ・サントノレで創業したロウソク屋で、ルイ14世の宮廷に納めていた。1737年にはパリ郊外アントニーにあった王立蝋製造所(現在は修道院)を買い取り、ヴェルサイユ宮殿や教会のご用達に。その後、トリュドンは持ち主が何度も変わり商標も失われていたが、1989年に買い取ったブロンドー氏がルーツを調べてトリュドンのブランドを復活させた。現在ではアロマキャンドルを中心(売上の9割)に、年間売上800万ユーロ、社員42人。パリに4店、NY、ロンドン、ソウルに店舗を持ち、米英露など40カ国への輸出が売上の8割を占める。
パリの西150kmにあるモルターニュ・オ・ペルシュの外れに、20世紀初めにパリ郊外から移転した総面積1500m2の工場がある。キャンドルは芯を中心に蝋を固めるという極めてシンプルな製品だ。昔は蜜蝋が原料だったが、今では蜜蝋の割合は少なく、アロマキャンドルではパームワックス、セイヨウアブラナワックスなど植物系の蝋が主成分で、その他のキャンドルはパラフィン100%。「確かにパラフィンは石油製品だが、パーム栽培には環境問題がある。将来的にはパームを減らして仏産アブラナワックスを増やす」とジュリアン・プリュヴォ社長。
製造はかなり機械化されている。溶かした蜜蝋や各種ワックスと香料が、あらかじめ芯 (撚綿糸)を固定したグラス(手作りのトスカナ産)に自動的に注がれる。だが、ワックスが固まり始めたところで、芯を1本ずつまっすぐに直すのも、固まった後で芯を切るのも手作業だ。大型キャンドルはワックスも手作業で注ぐ。普通のキャンドルの場合は一度に500本も作れる機械を使うが、顔料で色付けしたパラフィン液に1本ずつ浸して色付けするのは手作業。手でやるほうがむらなくきれいに仕上がるからだ。
よいキャンドルとは、灯している時も、灯していない時もいい香りがし、煙や煤が出ないものだ。トリュドンは自社のラボで燃え方や香りの放散、煤の出方などの燃焼実験を行い、キャンドルの品質を高めている。27種の香りは社内でコンセプトを決めて外部の調香師に依頼する。香水と違って、ワックスとの相性もあるので思い通りの香りを出し、香りを長持ちさせるのが苦労するところだそうだ。
最後に、アロマキャンドルの使用法についてプリュヴォ社長にアドバイスをもらった。3時間以上は灯し続けないこと、消すときは吹き消さずに、芯を溶けた蝋に浸して消し、次に使う時は芯の先を少しだけ切ってから火をつけると、煙や煤を出さずにきれいに燃えるとのこと。是非お試しを。(し)