革靴の歴史の長いヨーロッパでは靴の手入れも日常生活の大事なポイント。ビジネスシーンにまでスニーカーが進出しているが、少しあらたまった場ではエレガントな革靴は欠かせないし、寒い季節には革のブーツが重宝する。大事に手入れをして使えば長持ちするので愛着もわいてくる。スーパーでよくみかけるのはKiwi(米)だが、フランスにもサフィール、グリゾンなどいくつかのブランドがある。そこで、パリ郊外で生産している、靴クリームで仏トップのファマコを訪れた。
ファマコはパリ南郊外シャティヨンの緑の多い住宅街の中、工場・倉庫の集まる地区にある。フレデリック・プフィルテール氏が1931年にパリ4区に興した小さな会社は、現社長のオードレ、ブリューノ兄弟で3代目。2014年には無形文化財企業(EPV)に認定された。看板商品の100色ある靴クリームのほか、クリーナー、シューポリッシュ、「栄養補給」クリーム/オイル、撥水スプレー、染み抜き、スポーツシューズ用製品のほか、バッグや家具用のクリームも製造している(スプレー製品は外注)。社員45人と小粒ながらも年商1千万ユーロ(2016年)と健闘。ほとんどは自社ブランドで小売店、デパート、靴修理屋のほか、軍、消防署にも販売しているが、靴屋チェーンや高級ブランドの名を冠した製品も製造する。売上の15~20%は輸出で、欧州諸国のほか、中国、日本、ロシア、北米などにも輸出。「メイド・イン・フランス」のイメージ戦略で今後も輸出に力を入れる。
靴クリームの主成分は基本的に蝋(ろう)と溶剤。ファマコ勤続40年のクリスチャンさんによると、一口に蝋といっても500種類あるそうで、蜜蝋、植物系蝋(ブラジルロウヤシ、アーモンド)など自然ものと、パラフィンなど石油から作られる鉱物系ワックスがある。これにテレビン油(松精油)や揮発油といった溶剤と顔料を混ぜて作る。用途に応じて複数の蝋を混ぜるらしく、私がアトリエで目にしたポリバケツの中には、蜜蝋やブラジルロウヤシやパラフィンなどが混ぜて入れてあった。それらを職人が昔ながらの大釜に入れ、熱を加えて混ぜてクリーム状の製品にする。普通の革のほかに、スエード、エナメル、オイルドレザー、爬虫類革など特殊な革に専用の製品があり、「あらゆる革それぞれに使う製品を作れる」のがファマコのノウハウだという。また、環境保護の観点から、蜜蝋やブラジルロウヤシなど天然の蝋と植物系エッセンシャルオイルを使い、石油系溶剤の代わりに水を加える、クリーナー、ジェル、クリームの「Collection 1931」シリーズを近く発売するという。
「革製品は人間の皮膚と同じで、それぞれの革に適した手入れが必要」とオードレさんが言うように、「10秒でピカピカに」といった手軽な商品ではなく、きちんと汚れを落とし、クリームをすり込んで、艶出しをするという手間をかけなければいけないと肝に銘じた。(し)