5月末から6月はじめの記録的な降雨の影響で、フランス各地で洪水が発生した。セーヌ川の水位は6月4日、通常より4~5m高い6.1mに達した。近代以降最も被害の大きかった1910年の8・62mには及ばないが、1982年の増水時の6.15mとほぼ同じで、34年ぶりの高い水準を記録した。
フランス全土で約800市町村が洪水に見舞われ、5人が死亡した(6月8日現在)。
被害は5月30日から発生。フランス中央部オルレアン付近の高速道路が冠水し、車500台が立ち往生した。近郊の刑務所も浸水し、受刑者400人が別の刑務所に移送された。ロワール川湖畔の古城シャンボール城も、下層階が浸水した。
被害は次第にセーヌ川の川下に拡大。31日にはパリ近郊のヌムール市も中心部が冠水し、4000人が避難した。
6月1日には、パリ中心部のセーヌ川の水位が4.3mに上昇。航行が禁止され、遊覧船も営業を停止。2日には、セーヌ川沿いを走る近郊線のC線が運行を停止。地下鉄サン・ミシェル駅なども閉鎖された。河岸の遊歩道は水に沈み、小舟で生活していた人々が陸に渡ることが困難になった。
水位は3日も上昇。3日付のル・パリジャン紙は「パリが溺れかけている」と注意を喚起した。セーヌ川中州のシテ島の公園は水中に消え、パリ市内でもアパートの地下室の浸水が発生した。
セーヌ川沿いのルーヴル美術館、オルセー美術館などは3日から閉館し、地下の美術品を階上に避難させた。ルーヴル美術館は、浸水想定区域に約20万点の美術品を所蔵し、オルセー美術館もドガなど貴重な作品が、1階に展示されている。
水位は4日の午前2時に、ピークの6.1mに及んだ。保険会社によると、全国の被害総額は少なくとも6億ユーロ(約720億円)に上る。
セーヌ川氾濫の危険性は常々指摘されていたが、現実味を帯びたのは1982年以来のこと。水位や上昇スピードが国の予想を上回ったり、美術館や省庁、図書館など多くの公共施設が浸水想定地域に建設されているなどの問題点が改めて浮上した。気候変動の影響でより頻繁に増水が起こるという指摘もあり、早急な対策が求められている(重)。