会場は、父の軍服を着た自分がナチス式敬礼をしている、20代の作品で始まっている。「ユダヤ人らを大虐殺したドイツ人の罪を集団心理として受け継いだ自分は美術家としてなにができるのか」をずっと問いかけてきた作家である。会場を進むと、19世紀とナチスの時代に、ドイツ神話と英雄叙事詩が、戦意高揚のためドイツ愛国主義に利用された史実を元にした作品がある。戦後の平和な時代にドイツ人が見たくない過去をアートとして表現した。作品は暗く、重い。しかしキーファーの廃墟には美がある。そこが、主義主張のアートではない、一筋縄ではいかない重層的なものを感じさせる。
敗戦後70年だった昨年末に始まった本展は、日本人には、日本書記の中の言葉や万葉集の歌が戦前の植民地軍国主義に利用された自国の歴史と重なって見えてくる。展覧会後半の、植物や鉱物を入れ込み、金や鉛を使った作品は、地球が核爆発で廃墟になった後、それでも星に照らされて残ったものが静かにたたずんでいるかのような、美しくも恐ろしい魅力を放っている。4月18日まで。火休。 (羽)
Centre Georges Pompidou 火休 11h-21h
M°Rambuteau / Hôtel de Ville