以前、このコーナーで高級革張りソファーを取り上げたが、それとはまた一味違う、オリジナルな手作り家具を紹介してみたい。パリの南、エッソンヌ県南端のアンジェルヴィルで、廃品ダンボールで家具を作っている企業があると聞いて、そのアトリエを訪問することにした。パリ・オーステルリッツ駅から列車で50分。のどかな田園風景を望む小さな駅に降り立った。
2000年に創業したカンパニー・ブルーゼン (La Compagnie Bleuzen)はエリック・ギヨマールさんの個人企業。エリックさんは造形美術を勉強後、広告会社で働いていたが、ある日ダンボール家具の魅力にとりつかれ、1993年に仕事を辞めた。試行錯誤を繰り返して独自の家具制作法を見い出し、2000年に個人企業を創業した。企業や個人の注文を受けて家具を制作・販売する。
古い納屋を改造した自宅兼アトリエは、エリックさん自作の家具のほか、廃品を利用した鉄の階段、妻フロランスさん(教師)が作ったモザイクの鏡やモービルなどが飾ってあり、アーティスティックで手作りのテイストが伝わってくる。大きな薪ストーブが鎮座したダイニングキッチンに、この日は5日間のスタージュに参加する女性が4人そろっていた。うち2人はエリックさん宅に泊まっている。失業や転居を機会に新たな生き方や活動を模索している人たちだ。
台所の隣にあるアトリエは50m2のこじんまりとしたもので、6人までスタージュ受け入れ可能。エリックさんが、引き出し付きナイトテーブルを制作する作業を見せてくれた。慣れているから作業は早いが、一つ一つの工程を丁寧にやっているのがわかる。この丁寧さが丈夫で安定性のある家具の秘訣と見た。この作品では顔料をまぜた糊でちぎった紙を貼り付けた仕上げだが、仕上げ方法はいろいろだ。紙もクラフト紙、新聞紙、いろんな風合いのすき紙、布など好みのものを使える。液体ガラス塗料を塗れば、水がかかっても大丈夫だ。引き出しに取っ手を付けたり、扉がある場合は蝶番(ちょうつがい) を付けるのは木製家具と同じだ。
エリックさんによると、ダンボール家具の長所は軽くてエコロジックで、「切ったり組み立てたりが木などより簡単なので、創造性が発揮できること」。アトリエで誕生した作品のアルバムを見せてもらったが、確かに作る人の個性を反映したユニークなものばかりだ。一方、欠点は燃えやすいのと強度が劣ることだが、「意外と耐久性は強くて何十年ももつし、傷んだ部分を簡単に修理することができる」とエリックさんは請け合う。
エリックさんは自分の仕事を職人というよりもアーティストと認識している。もちろん注文を受ければ家具を作って販売するわけだが、「Orika」といった既製品を売るのとは違ってあくまでもオリジナルの1点ものだ。エリックさんは劇場の舞台装置、ショーウィンドーの飾りなどを手がけるほか、一般向けのスタージュのほかに学校や学童保育あるいは刑務所でのワークショップなどノウハウの普及と教育に力を入れる。「売るよりも、スタージュを優先したい」と、社会的活動に意欲的だ。かつての自分の生徒が開いたアトリエが国内外に30ヵ所あり、アソシエーションとして共同のウェブサイトを運営している。(し)