写真月間の写真展の中で、ほかは差しおいてでも紹介したいのが、このソール・ライター展だ。
2008年の1月から4月まで、パリのアンリ・カルチエ=ブレッソン財団(FHCB)で、ソール・ライター展が開催された。このときは、オヴニーの同年2月1日号に「絵画性が強く、ボナールとヴュイヤールが好きだというのが納得できる」と書いた。優しい作品、と好感は持ったが、特に強い印象は残らなかった。残っていたら、この大枠で紹介していたはずだ。
それが、である。会場を訪れて仰天した。FHCBで見た作品の作家とは別人かと思うほど、1枚1枚が鮮烈に頭に焼きつく。絵画性は強いどころか、会場の空気の中にまで、溢れるほど感じられる。FHCBでは白黒作品がほとんどだった。今回は、カラーが主流だ。その違いは大きい。交流ができ、その前から立ち去りたくない写真が多いのも稀なことだ。
『反射Reflection』の、窓に映る黄色いタクシーのふちの白黒模様は、市松模様の毛皮と対話している。毛皮の柔らかい感触とタクシーの冷たさが、すりガラスの中で一つになっている。
『青いパラソルParasol Bleu』では、真ん中の小さなオレンジ色が、画面の半分を占める水色の朝顔色のパラソル、傘を持つ女性の黒い短毛猫のようなコート、隣の人の疲れた雑種犬のような茶色のコートに波及している。パラソルからはオレンジ色が透けて見えるかのようだ。
ライターの抽象の水彩画も展示されている。写真から絵にすっと移っていける。絵画と写真のあいだに、共通するエスプリと水準の高さが感じられる。違う表現媒体を使うとどちらかの質が落ちる作家が多いものだが、ライターにはそれがない。彼の写真が、すでに抽象画に近い。
もともと絵を描いていた人である。展覧会の写真は、絵と写真のあいだで迷っていた50年代のものだ。最近まで机の引き出しにしまわれていた未公開作が多いという。絵は写真家として成功してからも続けていたが、発表したことはなかった。フランスでは、今回が初公開。ヴュイヤールの影響が感じられる素晴らしい作品群だ。(羽)
Galerie Camera Obscura : 268 bd Raspail 14e
12月23日迄。13h-19h。日月休。
© Saul Leiter. Courtesy Camera Obscura / Howard Greenberg gallery