昨年暮れ、アイルランド警察の報告により、70年代から2000年まで30年間、同国のカトリック神父ら数千人が約14 500人の少年に小児性愛行為を犯したこと、それらを教会が隠蔽してきたことがわかり、欧米諸国のカトリック界に連鎖的に火がつく。
米国では02年、ボストン司教区の神父80人が60~70年代に犯した小児性愛罪で起訴され、米カトリック教会は被害者に賠償金4億3600万ドルを支払っている。1950~02年、米国の4400人の神父による小児性愛被害者は1万1千人(賠償金計20億ドル)。カナダでも80年代後半に数百件が明るみに出、同国の教会も被害者に7億ユーロの賠償金を支払う。フランスでは01年、未成年者への性犯罪で懲役18年刑を受けたビセ司祭を、上司として告発しなかったピカン司教に執行猶予付3カ月の禁固刑を下している。現在30人余の聖職者が服役中、10人ほどが取り調べ中だ。オーストリア、オランダでも教会が信者や聖職者に課してきた「沈黙の掟」を被害者らが破りつつある。教会は、独身制(célibat)に従うべき聖職者たちの小児性愛や未成年者への性暴力を「罪」とみなすが、教会法では改悛や回心によって赦される。神が罪人を赦すように。
教皇ベネディクト16世の祖国ドイツでは、70~80年代の神父らによる小児性愛被害者170人がカトリック教会を相手取って提訴。現教皇が80年代に司教・神学教授だったミュンヘンの司教館にひとりの小児性愛症神父を「精神療法のため」滞在させたことも明るみに。同神父は未成年者への数件の性犯罪で86年に執行猶予付禁固刑18カ月を受刑。さらに3月初め、教皇の弟ゲオルグ・ラッツィンガー大司教はレーゲンスブルク大聖堂の少年合唱隊員たちも聖職者から性的虐待と体罰を受けていたと教皇に報告している。
神父らが長年犯してきた小児性愛・性犯罪を突きつけられベネディクト16世は3月20日、アイルランドの信者、聖職者に宛てた手紙では、「教皇自身が動転」し「過ちの重大さ」を認め、「容疑者たちは全能の神と裁判に答えるべき」と強く非難し、さらにアイルランドの神父たちの在俗化傾向を問題視する。が、被害者団体は教皇が、小児性愛容疑者らへの教会としての処罰や教会法改正にも触れていないことに不満の声を上げている。
神父らの小児性愛癖の原因を何人かのカトリック史学者は、神学生の情動の未発達さと、信者の信頼を利用した神父という優位性から生まれるとみる。3月5日付のルモンド紙でドイツのハンス・クング神学者は、キリストの使徒のほとんどは妻帯者であったこと、東方正教会神父らも妻帯者であり、ローマ教会が固執する独身制こそ諸悪の元凶とみなし、独身制の廃止を提案する。が、教皇は「独身制は神聖なもの、主に全てを捧げたしるし」と譲らない。カトリック教理学者、ベネディクト16世は、聖職者の独身制を現代社会に対するバチカンの最後の砦としているようだ。(君)