最近、交通法違反者からスーパーで万引した18歳の女性まで警察署で裸にされたうえ、手錠をかけられ十数時間留置されたことが新聞の話題になった。2月4日、パリ20区の中学校付近で3人の女子生徒のけんかが高じて殴り合いに発展した。翌朝、一人は親が留守中の自宅からパジャマのまま連行し、9時間留置したという警官の行過ぎが報道された。未成年者の強暴化が社会問題になっているが、13歳未満の少年も手錠をかけて連行、留置し、欧州法廷協約「尋問には弁護士の立ち合いが必要」という規定も守られていない。
02年サルコジ内相が唱えた「寛容ゼロ」政策に従い警官の業績は留置件数で決まり、09年は一般の留置58万件、交通法違反者の留置25万件と80万件以上にのぼる。未成年者については10~13歳は12時間留置でき(5年刑以上の犯罪被疑者は延長可)、13~16歳は24時間(重罪被疑者は延長可)、16~18歳は24時間留置でき、集団犯罪容疑者は48時間延長できる。1945年制定の少年法は刑罰よりも厚生教育を重んじるが、すでに31回改正され骨抜きに。13歳未満の留置が増えているわけだ。
サルコジ大統領が司法改革に踏み切ったのは、05年小児性犯罪容疑をめぐり1人の未熟な予審判事の一方的捜査が生んだ「ウトロー誤審裁判」のためだ。大統領は、革命以来存在する予審判事を廃止すると宣言した。現在、予審判事が扱う容疑は全体の4%にまで減っており、ほとんどが予審手続抜きの裁判となっている。1月24日、数百人の法衣姿の司法官たちがパリ破棄院前で抗議集会。改革案は予審判事を廃止し、代わりに検察官に捜査から移送・放免まで任せることになる。容疑者の釈放・拘置を決定する「捜査・保釈担当判事」が検察官の監督にあたるというのだが、取り調べには口出しできないという。
大きな改革は、英・米国のように検事と弁護士による弾劾方式(フランスは宗教裁判以来の糾問式)の対席裁判の導入だ。つまり高額で雇った弁護士の名弁論で陪審員を納得させて有利な判決を勝ち取ることも可能になるということ。妻の殺害容疑者シンプソン被告が証拠があっても無罪になったように。
さらに、米国でなされているように法廷で被告自身が有罪を認めれば刑が軽くなるギブ & テイク式判決の導入だ。裁判の簡略化を狙うためだが、司法官たちは誤審と裁判の二重構造化を恐れる。
サルコジ大統領は、先のクリアストリーム裁判でのドヴィルパン前首相の無罪判決への怒りを抑えながら、自分が訴えた前首相を控訴せず裁判騒動から身を引き、大統領と親交が深くツーカーの仲のマラン検察官が、大統領と申し合わせていたように上告した。控訴審は1年以上かかるから、怨讐(えんしゅう)ドヴィルパンの政界復帰を引き延ばせるわけだ。ここにも国民は大統領の政治的意図を勘ぐりざるをえないのだ。
サルコジ大統領は、元内相だけあって未成年者の留置から裁判官や検察官の任命・異動まで掌握できる司法組織の改造を急いでいるよう。(君)