フランスでは08年に家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンスDV)により157人(約2日半に1人)の女性が夫か同棲者、前夫らに殺害された。11月25日、国連の「女性に対する暴力撤廃デー」に、フィヨン首相は女性への暴力を防止する闘いを2010年の重大課題にすると表明した。
11月末から12月5日まで18区区役所のホールに〈Dolores 苦しみ〉と題するインスタレーションが展示された。林立する白と赤の筒にアーティストらが布や毛糸で作った、苦しみあえぐ赤い人形の一体一体。それらにはDVによる死亡者の名前と居住地、死亡年月日が記されたカードが吊るされている。
数週間前、セーヌ・エ・マルヌ県のモー市で29歳の女性が、別れたばかりのボーイフレンドにガソリンをかけられて火傷70%の重傷を負い、住民の数百人が抗議デモを行った。私生活での険悪関係とDVが激化するのは、とくに離婚訴訟中や女性から別れ話をもち出すときだという。
軽犯罪監視局の統計によると、DVは年間約20万件、レイプは約6万件。職場での暴力の32%、公道での暴力の43%は警察に届け出られるが、DVの届け出は13%にすぎない。レイプ被害者のなかで提訴したのはたったの5%。密室での夫や同棲・内縁者、前夫による肉体的・精神的暴力を口外する女性はほんの一部だ。そして父親の暴力シーンに立ち会う子供の10%は同時に父親による児童虐待を受けているという。パリの地下鉄の壁に貼ってある対暴力キャンペーンのポスターには「La violence, si tu te tais, elle te tue 暴力への沈黙は死をまねく」と表記されている。
フランスで初めて女性の保護対策が組まれたのは35年以上前の1972年。そして1980年にレイプが犯罪として認められ、職場での精神的いやがらせは02年に犯罪行為と認定された。
スペインのサパテロ政権はDV予防策として、DVの危険に直面する女性には、ボタンを押せば警察に通じる緊急モバイルを持たせ、DV累犯者には電子ブレスレットの着用を課す法律を04年に施行。05年にはDV容疑者約17万人を逮捕し、約10万人が被害者女性からの隔離処分を受け、約7500人が懲役刑に処されている。
モラノ家庭問題閣外相はフランスにもこの予防システムを導入し、年内からセーヌ・サンドニ県で実施する方針を発表した。そしてDV容疑者を夫の他にパクス協約者、内縁者にまで広げ、DVの危険にさらされている女性を保護するための「暫定的措置」により精神・心理療法や子供とともに宿泊できる保護施設や経済的援助などの保証、そして「精神的暴力」を軽犯罪として刑法に加える法案を議会に提出することを明らかにした。
DVの根絶には、家庭での女性蔑視の上下関係から女性を解放すべきであり、人権宣言を世界に広めたフランスでこそ、革命直後の1791年にフェミニズムの先駆者オランプ・ド・グージュが唱えた「女権宣言」を実行すべきでは。(君)
写真:インスタレーション〈Dolores 苦しみ〉