「この受賞は期待していませんでした。きっと25年間頑固に書き続けてきたことへのごほうびなのでしょう」と語るのは、『Trois femmes puissantes』でゴンクール賞を受賞したマリー・ンディアイ(42)。
ンディアイは、1967年オルレアン市に近いピティヴィエ市で生まれる。母はフランス人、父はセネガル人。「そうはいっても、私の人生でアフリカ人の血が入っているということはほとんど意味がない。ずっとフランスで母の手で育てられたんだし、父と生活したことはなかった。アフリカだって22歳になるまでは行ったことがなかったんだから」
ロシアの大作家たちを読みふけり、12歳から小説を書き始める。17歳の時に書いた『Quand au riche avenir』を持ってパリに出かけ、出版社Minuitを率いていた、名編集者ジェローム・ランドンに原稿を渡す。一読したランドンは、翌日ンディアイの母に電話し、翌々日彼女が通っていたソー市の高校の放課後時に会いにいく。この本はMinuit社より1985年に出版される。ンディアイ18歳。以来著作数は20冊を超え(うち小説は10冊)、その独特の文体も含め、ゴンクール賞を受賞するのは時間の問題とみられていた。2年前に、やはり小説家の夫ジャン=イヴ・サンドレ、彼らの三人の娘とベルリンに移住。生来の内気さのせいか私生活を大切にするためか、マスコミに登場する機会はほとんどない。
ところが今年8月18日に発行されたレ・ザンロキュプティブル誌の表紙に登場しファンを驚かせた。中のインタビューで「サルコジ大統領のフランスは怪物じみている。2年前からベルリンに住んでいるからといって、こんなフランスに無関心ではいられない。前回の大統領選挙の後でフランスを発った大きな理由は、サルコジ大統領だ。スノッブとみられるかもしれないけれど、今のフランスはどこに行っても警察だらけ、そして下品だ。ベッソン(移民・国家アイデンティティ相)とかオルトフ(内相)は怪物じみている」と発言。この発言を右派は忘れてはいなかった。
11月10日、テレビのトークショーで、与党UMP のエリック・ラウット元都市相は「ンディアイ氏は、(ゴンクール賞を受賞したのだから)あの発言を取り消し、謝罪すべきだ」と糾弾したから大騒ぎに。ゴンクール賞は民間の賞であるし、彼女は思ったことを言っていい。これは国家の検閲だ、とほとんどの文化人がンディアイ氏を支持。ところが、ポランスキー事件の時には、即座にポランスキー擁護の発言をしたミッテラン文化相は今のところ黙秘。
ンディアイがシナリオを書いて、クレール・ドゥニが監督した『White material』がもうすぐ公開される。ドゥニは子供時代、思春期とアフリカで育った。この二人が交差したらどんな作品になるのか、興味がつのる。(真)