最近封切りされたリオレ監督、ヴァンサン・ランドン主演の『Welcome』。ドーバー海峡に面するカレー港付近に500人余のイラク人、アフガン、クルド人、ルーマニア人らが暗闇の中で救援団体が配るスープやパンをもらっている。彼らは密入国手引き人に払うべき数百ユーロの借金を抱え、本国から3カ月歩いてカレーまでたどり着いた。英国に向かう大型トラックの床下や荷物の間に隠れて、ビニール袋を被り(警官は呼吸による二酸化炭素を検出できる)国境警察のコントロールを逃れようとする。映画は離婚訴訟中の水泳指導員が17歳のクルド系イラク人に、海峡を10時間泳いで渡れるようになるまで訓練するストーリーだが、自宅に彼を泊まらせたことを隣人が警察に密告し、家宅捜査、留置、尋問…と続く。これらのシーンを現実に体験している救援者たちのなかには、ヴィシー時代にユダヤ人を匿った市民への弾圧にたとえる人もいる。
入国・滞在法には「外国人の不法入国・滞在、国内の移動を手助けした者は懲役最高5年、罰金最高3万ユーロ」とある。「不法移民連帯罪」に問われた市民や救援活動家たちへの連帯集会が4月8日、全国80都市で開かれ、約5500人が各裁判所に自ら出頭し、彼らを検挙するようにと司法機関に迫る抗議集会を開いた。 社会党は、不法移民への「人道的援助」を軽罪から省く修正案を提出する方針。
宗教・民族紛争、貧困から逃れてきた不法移民は、シェンゲン協定国に属さない英国に行けば書類検査もなく、拙い英語でもどうにかやっていける希望と夢を抱いてカレーを目指して来る。1999年に設置されたサンガット緊急受入れセンターには年間約10万人がたどり着き、同地域の治安が危うくなり02年末に閉鎖。今日3万5千人に減少したとはいえ、不法移民ホームレスは腹をすかし幽霊のように街をうろつくか、市民が「ジャングル」と呼ぶ工業地区の空き地にビニールを張って過ごす、英国行きを諦めずに。
不法入国であれそうした状態にある者に手をさしのべたいと思う人、目を背ける人、警察の弾圧を恐れ彼らとの接触を避ける人、彼らを手助けした隣人を密告する人…。ナチス占領期のユダヤ人狩りを過去にもつフランス人にとって、不法移民をめぐっての警官と住民同士の警戒、猜疑心はいつか来た道を思い出させるのだろう。
サルコジ大統領はベッソン移民相に、09年は08年の国外退去数 2万6千人より多い 2万7千人を目標に掲げさせている。4月24日、カレーを訪れた同移民相は、「ジャングル」を除去し、亡命申請者受入れセンターや医療サービスを拡充、英政府に移民問題を提起すると表明したが、今のところ根本的解決策はない。
ひいては押し寄せる波のごとく先進国の岸辺に不法移民は押し寄せる。 4月初め、ローマのオスティエンセ駅では、マンホールの中で10日近く寝起きしていた10~15歳のアフガン難民の少年24人が発見されている。彼らも不法移民?(君)
写真:映画『Welcome』より。