●La Plus Belle Histoire du bonheur
春です。まだ暖房は消せないけど。まだ木々が緑になるにはちょっと早いけど。もう3月。春です。
ここ何カ月、あるいは何年も低迷しているフランス。精神安定剤の使用量がヨーロッパ一(世界一?)と評判のフランス人。社会、政治、経済、文化、どこから見ても暗いニュースばかり。20時のニュースを見ると気が滅入るからもう見ないという人もいる。また、大統領選挙の前の年になると、必ず政治家たちが世の中に対して悲観的な見方・意見をばらまき、大統領候補者の言説の後ろ盾をつくっているともいわれる。そして、ここ数カ月間のあいだ、政治家や社会学者、新聞記者たちがこぞって現在のフランスについての本を出している。しかもその大半がフランスがいかに衰退期にあるか、人がおそれや不安をいだいているかなどなど、まさに冬のフランスの空のような灰色に染まっている。
そんななか、タイムリーにこの2月に出たのが本書。Seuil社の〈La Plus Belle Histoire〉シリーズの最新刊の文庫版。『幸せの一番いいお話』。
哲学者、宗教史学者、18世紀専門の歴史家との対話形式で幸せが語られる。古代ギリシャの哲学者はどのように幸せを考えていたか? 美徳と幸福の関係は? 美徳があれば幸福なのか? 幸福であれば美徳でなくてもよい? 宗教の見地からは、キリスト教での楽園という幸せの場がいかにつくられ、解釈されてきたかが論じられる。そして、フランス革命に至る18世紀フランスでの幸せの観念がどうであったかは、現代のフランス人の幸せ感を知る材料になるだろう。
これを読めば幸せになれる、という本というわけではない。が、実はすでに幸せなんだと気づかされる本だ。幸せはavoir(成功、お金、美をもつこと)にある? それともetre(穏やかで、安らいで、調和状態にあること)にある? それとも…。本当の春を待ちながらぜひ読んでほしい一冊です。(樫)
A.Comte-Sponville / J. Delumeau /A. Farge,
Editions du Seuil, 176p., 2006, 5,9euros.