昨年9月30日、デンマークの保守系日刊紙ユランズ・ポステンがイスラム風刺画コンクールの当選作12点を掲載。そのうちの1作が、ムハンマドのターバンを爆弾の形に描いたことで「神への冒涜」「回教徒全員をテロリストとみなしてる」とコペンハーゲンで回教徒たちの抗議の声が上がり、燎原の火のごとく4カ月後の2月初めにはレバノン、シリア、サウジ、イラク、イラン、パレスチナ、インドネシア…とアラブ・イスラム世界で抗議デモ。シリアではデンマーク、ノルウェー大使館に放火。仏2紙フランス・ソワールとシャルリー・エブドも同風刺画を転載したことでイランの仏大使館も破壊の対象に。シラク大統領は「他の信条を傷つける風刺画」と批判しながらもデンマーク、ノルウェー同様、一触即発を恐れてか自国の公館への破壊行為を無言で見守る。500万人のムスリム人口を抱えるフランスでは過激なデモは見られないが、反ユダヤ主義罪やキリスト教冒涜罪があるのに反イスラム罪が存在しない不公平さに不満の声が上がっている。 「表現の自由」を罰した例として、1988年『悪魔の詩』の著者サルマン・ラシュディへの故ホメイニ師による死刑宣告。04年11月、夫に虐待されるイスラム女性を描いた映画『サブミッション- 服従』の監督テオ・ヴァンゴッホのアムステルダムでの過激派分子による殺害などが挙げられる。 ムハンマド風刺画問題は、ムハンマドの形象化を禁じるイスラム対西洋の「民主主義=表現の自由」の対立ととれるが、イラン、サウジを初め原理主義国では民主主義は教権体制のための手段にすぎない。 昨年夏、イランの総選挙で原理主義者アハマディネジャド(「イスラエルを地図から抹殺すべき」「ホロコーストは神話にすぎない」と公言)が大統領に当選した。パレスチナでは、西洋からテロ組織とみなされてきたハマスが1月の選挙で圧勝し、1964年創立のパレスチナ解放機構(PLO)最大の派閥ファタハと交代。イラク戦争でブッシュ大統領が計画した大中東構想のかわりに、サウジ・イラン主導のイスラム全体主義圏が形成されつつあるのだ。 2月13日、イランの体制派日刊紙ハムシャリ紙は、デンマークのイスラム風刺画コンクールに対抗し、「ホロコースト」をテーマにした風刺画国際コンクールへの公募を発表。西洋に対し目には目をの反撃だ。 昨年12月のこと、ヴォルテールの戯曲『Fanatisme ou Mahomet le prophete』(1741)の演劇は自粛され朗読だけがジュネーヴの劇場で警官に守られて演じられたという(1993年、イスラム原理主義者の介入で公演禁止)。西洋諸国で西洋の古典演劇を観ることも聴くことも危険をともなう時代が始まっているのである。(君) |
2月3日付〈ル・モンド〉紙表紙のプランチュのデッサン。 “je ne dois pas dessiner Mahomet” (ムハンマドを描いてはならない)のフレーズがみっしり描き連ねてある。
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