スラリとまっすぐに伸びたおみ足の持ち主、マルティーヌさんは、元オペラ座のダンサー。現役時代は海外公演も多くこなす花形で、来日したこともあるという。現在はコンセルヴァトワールで後進の指導に情熱を注いでいる。 彼女がアパート探しを始めたのは6年ほど前。同じくオペラ座のダンサーであったご亭主との離婚を機に、一人暮らしを始めるためであった。現在のアパートは不動産屋を通して紹介されたのだが、最初に見学した時は、隣り合う二つの独立したアパートだった。立地や日当たりは抜群なのだが、それぞれのアパートの大きさは、ゆったり住むにはちょっと狭かった。「だったら一つのアパートに変えちゃったらいいんじゃない?」この彼女の愛娘アンヌさんのひと言がきっかけとなり、二つのアパートを改造し、ひとつのアパートにすることを決意する。 もともと大工仕事などの手仕事が得意な彼女。渋る不動産屋の承諾を得て、二つのアパートを同時に購入し、早速部屋の大改造を始めた。まずは二つのアパートを隔てる大きな壁を取り払い、余分な玄関のドアやシャワーを取り除き、キッチンと応接間をつなぐ壁をくり抜いて、窓を作った。また棚やテレビ台などの家具類やカーテンなども素材や色を吟味し、ひとつひとつ手作りで作っていった。「前に住んでいたアパートではできなかったことだから嬉しかった。徹底的にやろうと思ったの」 理想的なマイ空間を追求できる幸せを噛みしめる彼女だったが、ひとつ大きな問題が残されていた。「困った先客がいたのよ!」。実は不法入居者の男性が長らくこのアパートに住みついていたのだ。彼は、マルティーヌさんがアパートの契約を済ませた後も、部屋の改造をしている間も、愛着あるこの場所に住み続けていた。何度もパリ市の施設に「お引っ越し」してもらうようお願いしてみたが、一度出てもまた猫のように戻ってくるの繰り返し。しかも水や電気も勝手に使用してしまう強者だった。その間3カ月。結局、彼女がアパートに正式入居するようになってから、なんとか諦めて立ち去ってもらった。 さてそんな過去を持つアパートも、今となってはどこから見ても “メイド・バイ・マルティーヌ” の空間。彼女の手作りカーテンには、冬の優しい太陽光線がふわりと降り注いでいる。このアパートで、今日も彼女はなが~い足を優雅に動かし、ストレッチを怠らないのだった。(瑞) |
自分でくり抜き、木を添えた窓から顔を出すマルティーヌさん。 キッチンから応接間をのぞむ。
マルティーヌさんの現役時代の写真。 |
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ジュルダン教会。 | |
ジュルダン駅の改札口を抜け地上に出ると、2本の尖塔が空を大胆に突き刺す教会がお出迎え。バラ窓が美しいこの教会は、マルティーヌさんおすすめの場所だ。ベルヴィル通りに面するこの教会の歴史は、1543年に小さなチャペルが建設されたことから幕開ける。町の名前としてベルヴィルが登場したのが1451年だから、この教会はベルヴィルの発展を見守ってきたといえる。マルティーヌさんに教会のことをたずねると、実は教会の中にはめったに入らないから、よくわからないとのお答え。「パリという都会に住んでいても、この教会のおかげで村のような雰囲気が味わえるということが大事なの。なぜかとても安心できるのよ」 さて、この教会の向かいには、知る人ぞ知る美味しい高級洋菓子店がある。その名も「Patisserie de l’Eglise (教会の洋菓子店)」。お店のロゴにもやはり2本の尖塔のシルエットがあしらわれている。1887年からの老舗で、手の込んだ上品な甘さのケーキ類が絶品です。(瑞)
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*Patisserie de l’Eglise 10 rue du Jourdain 20e 01.4636.6608 |