パリ第四大学哲学部教授で、デカルトと現象学を専門とするJean-Luc Marionが長年温めてきたという本書は、愛の考察を提示する。
デカルトの『省察』と同じく6つの省察からなるが、本書ではデカルト的形而上学的省察は「エロチック」な考察に置き換えられている。私 -ego- は、デカルト的コギトでは定義されず、愛する/愛されるものとして定義される。
愛によって確立される自己の存在から始まるこの愛の現象学的省察は、愛の過程をたどるように進められる。主なものは、私を愛するものとしての他者の省察と肉体の省察だろう。後者に関して少し詳しく言えば、物質としての身体ではなく、他者を感じるもの、受け入れるものとしての肉体、他者が私の肉体を感じていることを感じる肉体としての私の存在が分析・考察される。そして最後には子供があらわれ、そして…。ここでこの愛の思考が「いく」ところはあえて挙げないが、本書では、あらゆる愛の現象が考察される。つまり、まだ見知らぬ他者からの愛、他者への愛、自己愛、愛の告白と誓い、性交、愛するものの言語、嫉妬、嫌悪、等々。
デカルトから、ショーペンハウアーやニーチェをへてレヴィナスまで、さまざまな西洋哲学の思考の影響・反響がみられるが、学術的な注釈も参考文献一覧もない本書。そしてデカルトの『省察』のように第一人称(je)で書かれているだけでなく、第二人称である君(tu)に対してかかれている本書。確かに、厳密なる哲学的考察にともなう言語と抽象的概念は、かなり難しい。おそらくこれまでここで紹介した中でも最も難しい本だろう。しかし、知的に、そして、愛に溢れた夏をすごしたいあなたへ。(樫)
Jean-Luc Marion,
Grasset, “Figures”,
2003, 348p., 22€