フランスの第二の宗教、イスラム人口は約500万人。全国に約1500のモスクや礼拝所があるなかでその8割は移民が運営し、導師イマームも祖国から派遣され、経済的にもそれらの国に依存している。一方、フランス国籍をもつ若いムスリム世代は、フランスで生まれたイスラム教徒として自己主張しはじめている。
3年前にシュヴェヌマン元内務相が、国内のムスリム社会の代表機関の設立を提案したのだが、9・11以後、テロリストとイスラム原理主義者、過激派が同一視され、「フランス人の60%はイスラムを怖れている」といわれており、政府にとってムスリム社会のスポークスマンとなれる代表機関の設立が急務となっていた。
そこで昨年12月、サルコジ内務相は国内の主だったイスラム団体の代表者に集まってもらい、難産のはて政府がお膳立てした「イスラム・フランス評議会」(CFCM) 設立案への同意にこぎつけた。それはナポレオンが、ユダヤ教徒の代表機関としてユダヤ教長老会議を設立したのに通じ、画期的な一歩といえる。
サルコジ内務相は、まず同評議会議長(任期2年)にパリ回教寺院のブバケル院長(アルジェリア系穏健派でシラク大統領を支持)を、副議長に仏イスラム団体連盟(UOIF:ムスリム同胞団系)アラウイ事務局長と、仏ムスリム全国連盟(FNME: モロッコ系)ベシャリ代表を任命した。イスラム宗派が乱立する仏国内で信徒の7割を占めるこの三大宗派をピラミッド型に配したサルコジ内務相の苦心がうかがわれる。ところが、最大の組織であるUOIFは毎年4月、ブールジェでの大会に約3万人を集め、信徒集会としてだけでなく社会的集会へと発展しつつあるだけに、原理主義派のUOIF事務局長が副議長の座につくことを憂慮する向きも少なくない。
そして4月6日と13日、事前に全国の995のモスクや礼拝所で選出された4032人の選挙人が比例代表制で、全国評議会選と25の地方評議会選(CRCM)、理事会選に投票。執行委員(事前に宗派別に人数を割当)は5月3日、全国評議会が選出する。
が、選挙人たちは、礼拝所の面積(100~200m2 : 1人)から割り出され、各礼拝所に集まる信徒数は無関係。例えば、郊外の若い世代の間で盛んになっているサウジ系ワッハーブ派やスーフィズム派などのグループは除外されており、民主的選挙ではないという批判の声もあがっている。
サルコジ内務相は、外国から派遣されてくるイマームによって移植されるイスラムではなく「共和国フランスのイスラム」を築くため、フランス語で説教できるイマームの養成学院の開設も考えており、今後できるだけイスラム石油諸国との宗教・経済的関係を断ち切っていきたいところ。ということはモスクの建設などに地方自治体が資金援助しなければならなくなり、政教分離の原則と矛盾しないか、イスラム教の扱い方が今後の課題に。
4月19日、第20回UOIF大会に招かれたサルコジ内相が「身分証明写真での着帽の禁止令」にふれ、イスラム女性のスカーフ着用はUOIFの推進運動の一つだけに、群衆からブーイングを浴び、宗教を手なずけることの難しさが露呈。(君)
アルジェリア系パリ回教寺院のミナレット。
イスラム・フランス評議会選挙結果
全国評議会選 (157人+ 44人= 201人)
53人 UOIF派 (ムスリム同胞団系)
44人 FNMF派 (モロッコ系)
32人 パリ回教寺院派 (アルジェリア系)
13人 CCMTF派 (トルコ系)
15人 その他
44人 当選者が推薦・指名
(Le Monde : 03/4/15)