90年代初期にさかのぼる一大政財界疑惑、元国営ELF石油会社疑惑の大河的裁判が3月17日から6月まで繰り広げられる。天文学的額にのぼる贈収賄疑惑の副産物ともいえる、デュマ元外務相・元憲法評議会議長(80)の愛人関係の絡んだ企業財産乱用容疑*ほどバルザック風味の強い裁判はなかったろう。 ピカソやシャガール、ジャコメッティの弁護士としても知られるローラン・デュマ氏は、故ミッテラン大統領の側近として1984年から外務相を務め、ELF疑惑の噂が立ちはじめた95年、故大統領の退任直前に法の最高機関、憲法評議会議長に任命された。「口達者で如才なく魅力的で社交家で女に弱い」(Figaro紙)デュマ氏は、クリスチーヌ・ドヴィエ=ジョンクール(以降D-J)夫人(現54)と88年に知り合った。 当時のELF社総務部長シリヴァン被告(76)が、台湾へのフリゲート艦輸出交渉にデュマ外相の影響力を利用しようとD-J夫人を雇い、『仏共和国の娼婦』(彼女の著書)を演じた彼女に5900万フランのコミッションと高級アパルトマンの購入も会社が支払った。彼女はデュマ氏にブランド靴やギリシア彫刻を会社のカードで買ってやったりし(彼は彼女に返済したというが)、デュマ氏は愛人の優雅な生活に便乗したとみられたのか、企業財産乱用共犯の疑いで2001年5月、パリ軽罪裁に禁固6カ月、執行猶予2年、100万フランの罰金刑を受けている。(彼の数百万フランにのぼる無申告の有り金への追求は第一審でなきに等しい扱いで脱税容疑にも挙っていない) が、今年1月29日、控訴院は「被告の振る舞い方は容認しがたいが問われた容疑は処罰に値しない」とし無罪判決を下した。しかしここでいう「容認しがたい振る舞い方」とは、品行方正であるべき高官としての倫理を指すのだろう。エヴァ・ジョリ予審判事らの数年にわたる執拗な調査も水の泡に。同予審判事は最終段階で辞表を出し母国ノルウェーに帰国。一方、ル・フロック=プリジャンELF元社長やシルヴァン元総務部長、D-J夫人、彼女のもう一人の愛人ミアラら各被告には前判決よりやや軽い判決が確定した。 それにしても、軽罪裁で禁固刑6カ月、執行猶予2年および100万フランの罰金刑を受けたデュマ被告が、なぜ1年8カ月後には無罪になれるのか。判決の豹変ぶりに、国民は煙に巻かれたとしか思えないのでは。 昨年5月、シラク大統領再選と右派内閣成立以来、立法から行政、司法機関まで右派体制で固められている今日、膨大な贈収賄疑惑にかみつきデュマ氏の尻尾をつかんだE・ジョリ元予審判事や調査を引き継いだ予審判事らにとって、彼の無罪判決はビンタを食ったのと同じだろう。 シラク大統領が2007年に落選、または出馬せず引退したとしたら、彼のパリ市長時代にさかのぼる数件の裏金資金疑惑の取り調べが開始されるはずだ。デュマ氏の場合、”鼻の下が長すぎた元高官の過ち”ととることもできようが、彼の無罪判決こそ、政界人が抱える諸々の疑惑に備えての布石ともとれるのだ。(君) *No.435(99/4/15), 474(01/3/1) |
控訴院判決 (禁固+執行猶予+罰金) |