ポンピドゥセンターが地下から最上階まで、ダニエル・ビュラン(1938-)一色になってしまった。センター外壁の縞模様のダリアの写真や、エントランスのストライプの旗は、まるでここでは初のビュランの個展を喜んでいるかのようだ。 6階メインの展示スペースには、各30m2で70の小部屋に仕切った約2000m2の広さの「仕掛け」が作られた。ここに1960年代から現在まで、彼の軌跡をたどる作品が詰め込まれている。作品はそれぞれ個別展示されているが、この巨大な「仕掛け」自体もひとつの作品だ。 1960年代、若いコンセプチュアル・アーティストとして、ビュランは芸術の伝統的構造(表現様式、美術市場、画廊や美術館の制度的、空間的制限など)に真っ向から反発していた。「絵画のゼロのレベル」を目指し、幅8.7センチ、白とその他一色が交互に配置された縞模様を「視覚的道具」として1967年から活用し始める。意味のない匿名のストライプを、街角に、建物の内部や外部に、様々な場所に張った。縞柄はそれを取り巻く人々の注意を引き、いつ、どこに張るかで派生する事象を変化させる。 与えられた場所に作品を配置する通常の展示方法とは別次元で、作品が存在し得ると気づいたビュランは、場所の状況と芸術的行為との関係を、作品形成のためのコンセプト〈in situ/その位置において〉に昇華させた。作品のための場所は、場所としての作品になる。以来、縞模様だけに頼ることなく、〈in situ〉に基づいて、彼は場所と作品の関係を問い続ける。 ビュランの名が一般に知られるようになったのは、パレ・ロワイヤル中庭の縞の円柱がきっかけだろう。1985年に文化省の依頼で、駐車場を歩行者のための広場にする仕事に着手したが、世論の強い反発で工事は一時中断した。小部屋の一つには、通行人が賛否両論の落書きを残した、工事現場を取り囲んでいた木の塀がそのまま展示されている。 ストライプ、四角形、円、鏡、垂直、斜め、様々な色、これらを道具に作品と場所が相互に依存することを示してきたビュラン。彼が経てきた時間を迷路のような空間で体験し、テラスに出ると、見慣れたパリの情景が広がる。ふと見渡せば遠くに彼のストライプが。「美術館に展示することは、すなわち美術館を展示すること」という彼の言葉通り、ポンピドゥセンターは裏も表も、パリの街ごと巨大な作品として展示されてしまった。(仙) 9/23日迄(火休) |
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T’ang Haywen展
山や草から魂を吹き込まれた筆が、紙の上に線を流し出し、風の音をたてているような、タン・ハイウェン(1927-91)の水彩画を中心とする作品150点。 中国福健省で生まれ、インドシナ半島に移住したタンは、1948年、パリへ渡る。医学への道はやがて画家への道に変わった。1955~70年にはマティス、セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホから霊感を得た作品を多く残しているが、西洋絵画と中国絵画の技法の違いを意識しつつ、自分自身の描き方を探り出そうとする彼の作品は、先達たちの作品とは全く別のものとなっている。重要なのは技術ではなく、自然と向かい合う時に精神が受ける感覚であると理解し、タンは60年代末には具象表現を捨てて表現主義へと進んだ。彼はこの時期に、水彩画を2枚一組の厚紙に描くという理想の画法を見つけている。 1980年、ターナーの「静まった嵐」をモデルに絵を描いていたタンは、自分の感覚がそれまでとは全く別の状態になるのを感じた。彼にとっての風景画の基盤になるのはフォルムではなく、精神そのものだと悟ったのだった。この時、彼は抽象画家となった。彼の絵はそれ以降、西洋絵画から完全に解き放たれた。 西洋と東洋の絵画の狭間にゆれながら独自の視点で描かれた山、木、草、海。対象を長時間観察し、感じ、しかし、一旦筆を持つと一気に描き上げた。具象でも、抽象でもない。彼と対象が一体となった、自然そのもののようだ。(水) |
*ギメ美術館: 6 pl. d’Iena 16e(火休)9/10迄
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●Arnold NEWMAN(1918-) ライフ誌やハーパース・バザー誌で活躍したアメリカ人写真家。ベーコン、デュシャン、ストラヴィンスキーなど、20世紀の代表的芸術家の優れたポートレート写真150点。9/22迄 ●<Paris + Klein> 1950年代から今日まで、小型カメラで縦横無尽にウィリアム・クラインが切り取ったパリ。9/1迄(月火休) ●Jasper JOHNS(1930-) ジャスパー・ジョーンズが1960~2000年に制作した版画作品。9/8迄 99 rue Claude-Monet, Giverny(月休) ●Bertrand LAVIER(1949-) 70年代にはピアノ、窓、鏡などのオブジェを元の色と同じ色のペンキで覆った。80年代には「台座の上の彫刻」と題し、冷蔵庫を肘掛け椅子や金庫の上に乗せた。常に物の意味を問い続けてきたラヴィエの作品展。9/22迄(月休) 11 av. de President Wilson 16e ●Takashi MURAKAMI(1962-) マンガ文化を全身に浴びて育ったムラカミは、今やフランスでは日本の文化を象徴するアーティストだ。キノコや目玉やお花で一杯、平面・立体作品展。 10/27迄(12h-20h 月休) Fondation Cartier: 261 bd. Raspail 14e ●Georges MATHIEU(1921-) アメリカのアクションペインティングや日本の具体派と同時期に、精神世界からほとばしる「抒情的抽象主義」で戦後の抽象表現を根本から塗り替えた、フランス人アーティストの大回顧展。10/6迄 Jeu de Paume: pl. de la Concorde 1er (火休) ●Robert RAUSCHENBERG 多種多様なイメージの混合で観る側を困惑させてきた、ネオ・ダダイスト、ラウシェンバーグの近作。フォトコラージュ52点と立体作品。10/14迄(火休) Musee Maillol: 61 rue de Grenelle 6e ●KUPKA(1871-1957) フランス・チェコ年に因んだ展覧会。20世紀初頭に抽象芸術運動を推進した、チェコ生まれの画家のデッサンや風刺画などのグラフィック作品展。クプカの知られざる一面。10/6迄 Musee d’Orsay(月休) |
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