マレ地区の画廊街にあるギャラリー・シモーヌはセレクト・ストアーとして話題を呼んでいる。モード誌で「アーティストの店」と命名された。スタイリスト、オーガナイザー、マネージャーなどを経てクリエーションにグローバルに関わってきたドイツ人のシモーヌさんは、キャリアに関係なく隠れた才能を発掘し、共に仕事をしてゆくには、売れそうな商品だけをセレクトするのではなく、作者とコミュニケートすることを重視している。メインクリエーター+ゲストを4カ月タームで紹介、テーマを決めて店内をアレンジする。「なぜギャラリーに着られる服が置いてあるのか?」など客の反応も興味深い。知名度や値段で判断するのではなく、モノそのものを見て欲しい、新しいクリエーターを紹介したいという姿勢がスペースににじみ出る。 3区区役所に近いORPIMENTは、マグリットの「コレはパイプではない」をもじり「コレはアート・ギャラリーではありません」と語る、文化遺産局に勤めていたグーマンさんが経営する店。アールデコから現代アート、宝飾まで揃ったスタイル、エポックを問わない一品もののオブジェは、どれもエレガント。自宅の装飾の延長だそうだが、新旧スタイルの心地よい共存が珍しい。ここでもテーマ、作家、作品、客、経済のどの要素も分離することがなく調和がとれている。装飾とアートのハーモニーの中で、自由に選択権を委ねられたかんじ。 今、観る人に概念を提示したり、導く、というよりは、洗脳するような現代アートギャラリーのあり方、インスティテューションによる、つくる側、観る側の自由意志への介入や操作、それらを能動的に社会へ流す視覚主義のアート評論などに対し、静かなレジスタンスが起っている。ここにあげた2つのお店もそんな動きの一つだろう。パレ・ド・トーキョーなどに見る新しい数々のアートスペースと呼ばれる場では、このような動力を形式的なトレンドとしてイベント化し、それを増長、断言する傾向がある。また、情報的にカタログから選び、背景や色違いの絵画などがオーダーできるアート店もできはじめた。行き詰るシステムの中で、観想、無為、超意志、交感が必然な、普段の生き方をも含めたアートの意味を増々見失うことにらないだろうか? 表現の自由に、自由そのものに圧力を予見した敏感なアート界が、自ずと民主的な開いた方法でみつけた抜け道=ギャラリー・ブティックといっては言い過ぎだろうか? システムに対立せず、資本に傾き過ぎることもなく、コンテクストを一方的に強制しない、バランスの取れたやり方の一つかもしれない。(麦) |
Morellini、Coudert、Rouhonen、 Yalmaを中心に洋服、インテリア、絵画、写真など幅の広いギャラリー・シモーヌ。 124 rue Vieille du Temple 3e 01.4274.2128 火-土/12h-19h30
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