今月は、初のエスキモー(という呼称はインディアンの言葉で “生肉を食べる人” という意味なのだそうだ。差別語に過敏な最近、本人たちによる自称イヌイットが定着。というわけで改めて)初のイヌイット映画『Atanarjuat, la légende de l’homme rapide/アタナルジュア、俊足男の伝説』を紹介します。昨年のカンヌ映画祭で新人賞、カメラドールを受賞し、今年のオスカー賞・外国映画部門にカナダ代表としてノミネートされている話題作でもあります。
まずは、北極圏で暮らす彼らの風習に、物珍しさも手伝って見入っていると、やがてやけに親近感を感じてくるのは、彼らが我々と同じモンゴル系民族だからだと気付く。知り合いの誰かに似ているそっくりさんがいっぱい出ているって感じ。イヌイットは、夏は家族単位で過ごし、越冬は小グループを形成して厳しい自然と対峙する。このグループ内で強者と弱者の権力構造ができてしまうのは人間の定めか。ヒーローのアタナルジュアは、父が狩猟が苦手だったためにグループ内で辛苦を舐めて育った。成人したアタナルジュアは強者一家のオキの許婚者、アチュアと恋愛結婚。オキの恨みを買う。一方、オキの妹のプジャはアタナルジュアに横恋慕の末、二番目の妻に収まるが、義理の兄にも手を出して追い出される。実家に戻ったプジャの報告で、オキの積年の恨みが沸点に達し、アタナルジュア殺人計画が実行されるが、俊足の彼は雪原を裸足で逃げ切る…。実際イヌイットに伝承されてきたというこの物語、最後は教訓話的に終わるのだが、映画作品として秀逸だ。素朴な演技に真実味があり、それを捉えるカメラアイも的確で、変な表現だが映画全体に色気がある。監督は Zacharias Kunuk。(吉)