●Aurore 一見たわいのない恋愛小説に見えるこの作品、「愛とは…」というアフォリズムのステレオタイプが周期的にあらわれるこの作品。その真の独自性はこのような表面的、典型的な恋愛小説調子にあるのではなく、その背後にある独特の微妙さにある。それはあまりに繊細であり、プルーストの『失われた時を求めて』の「Albertine disparue」と、キューブリックの『Eyes Wide Shut』を足して二で割った小説、という極端な表現をすることでまずはとらえられることだろう。 つまり、一方では、19世紀に多くの小説を生み出し、ある意味でプルーストにおいて頂点に至った、感情、意識の動きに敏感である小説の流れが感じられる。他方では、20世紀のあらゆる分野においての性の解放—そして脱線—が感じられる。 一方では、エピグラフにおかれた「Albertine disparue」の一句はそれだけで、本作品のヒロインAuroreにアルベルチーヌの影を重ねるのに十分であり、あらゆる彼女の神秘さ、そしてそれに付随する語り手の自問は、『失われた時を求めて』の最も素晴らしい部分の一つといわれるアルベルチーヌのエピソードを思い起こさせる。特に後半部で描かれる現代ヨーロッパのいわゆるJet Setの社会は、その派手さではなく、その神秘さ、そして倒錯において、キューブリックやリンチの映画作品が描く世界を思わせる。 とはいえ、この小説には、プルースト、キューブリックの強さはない。が、「19世紀的」センチメンタルな、ロマンチックな愛、そして「20世紀的」倒錯、脱線していく愛をこえて、この作品が「模索」しているのは「21世紀」の恋愛小説であり、それ故に、「現代」の愛を模索する我々に響くのでは…。(樫) |
Jean-Paul Enthoven, Grasset, 2001, 220 p., 95f (14,48 euros). |