10月11日から17日まで、パリ市でインディペンデント系映画館の作品が20F均一料金で観られるキャンペーン”Paris, capitale du cinema Art & Essai” が開催される。そこで、いかに “UGC illimite” (下欄参照) が猛威を奮おうとも、今月はインディペンデント系映画館で上映される良質の作品をご紹介。
まずは今年カンヌで監督賞を受賞したエドワード・ヤンの『YiYi』から。台湾の中流階級一家とその周りの人々。危篤状態に陥った祖母、かつての恋人と偶然再会する父、人生の不公平を初めて知る少女、淡い恋のようなものに出会う少年。 映画はそれぞれの日常のハイライトを丁寧に重ねてゆく。「この映画には、実の ところ登場人物は一人しかいない」と監督は語っているが、それぞれの登場人物たちが立ち会う瞬間や思いは、私たちがいつかどこかで経験した、そして経験するかもしれない共通項となって響いてくる。優しく時に容赦のない、まるで神のように人生を俯瞰する視点。いつしか3時間という長さを忘れ、不思議といつまでも観ていたいという心地良さへ誘ってくれるのだ。 お次は、傑作『そして僕は恋をする』から4年、さんざんファンを待たせた罪な男アルノー・デプレシャン。だが新作『Esther Khan』は、力強さと繊細さが同居する “待った甲斐があった” といえる作品。演じることにとり憑かれた女性エスター・カーンの半生の記録だ。映画の中に演劇シーンがあれば、俳優は「映画」と「映画の中の芝居」という二重の芝居を強いられることになるが、これを故リバー・フェニックスの実の妹サマー・フェニックスが素晴らしくこなしている。時にのぞく狂気が凄まじい。 以上の2作品ははっきりいって上映時間が長い。耐えられない方はチェコ映画『La Carpe』(上映時間32分)。お父さんが町で買った食用の鯉を逃がしてあげようと奮闘する可愛らしい少年のお話。映画初公開 (?) 鯉の歯磨きシーンが見られます。(瑞) 『Esther Khan』と『La Carpe』は4日より公開。 |
■ 映画館の本数無制限パスが | |
「月98フランで映画が好きなだけ観られる」というニュースが流れたのが今年3月末。”UGC illimite”と名付けられた本数無制限のパスがそれで、大型映画チェーンUGC系列館で使用可能だ。映画の良き理解者を自認するフランスも、今や日本と同様「シネマコンプレックス」の脅威に怯える状態だということを印象づけた。だが発売と同時に他の配給会社や映画館、監督協会らが「観客独占、多様性への攻撃」と猛反発。一カ月余りで販売は中止状態となった。ところが7月27日、無制限パスは再発売へ。同時に他の映画館チェーンのパス発売ラッシュに火をつけたのだった。 まずは8月2日、パテ系が同じ条件の”Path Cine a Volonte !” 発行に踏み切った。現在はナント地方のみだが、ゆくゆくは全国で発売予定だとか。 奇妙な反応を示したのがゴーモン系とMK2系。当初 “UGC illimite”案そのものに反対だったのに、ついには二社間で手を結び、9月27日からイル・ド・フランス地方にてほぼ同内容の無制限 “Le Passe”を発売することに。最低一年間の契約をしなければならないUGCやPatheのパスとは違い、「Le Passe」は最低半年からでよいことが特徴だ。同時にゴーモンは、Patheに負けじと、ナント地方のゴーモン系映画館のみで使用できるカード”Gaumont Le Passe” も発売。 物語はまだ終わらない。現在、CNC (国立映画センター) が中心となり、全国インディペンデント系列映画館にて使用可能なパスが検討されているという。こちらは50フランを払えば、後は映画館に通うほどに入場料が割り引きされていくというシステムだとか。 月に3度も足を運べば元が取れる本数無制限パス、映画ファンにはやはり魅力的。だがあれも観たい、これも観たいで各系列館のパスをすべて購入したりすれば、結局は高くつきそうだが…。(瑞) |
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■ Le Cinoche Vide 「フランスに来たのは29年前。だからここでは私は29歳よ」。ブルガリア出身の女性監督マリア・コレヴァさんが、自身の映画コレクションを上映する無料の映画館 “Le Cinoche Video” を開いて今年で10年。毎週金曜日、サン・ミシェル大通りに面した彼女のアパートでは、小さなスクリーンが下ろされ、16ミリの映写機がゆっくりと回り出す。監督辞典に名を連ねる彼女の作品はドキュメントとフィクションの融合が特徴。作品は少々難解だが、質問をすれば可愛らしいブルガリア訛りで丁寧に答えてくれるはず。 |
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