1986年からエステティシャンとして仕事をしているドミニクさん。月曜日のきょうは、パリ郊外ヴィルジュイーフにあるギュスタヴ・ルッシー病院での仕事だ。この病院の中にはエステティック・サロンがあるので、がん治療のために入院している患者さんをそこに迎え、無料でフェイスマッサージから始まる顔の手入れ、脱毛、爪の手入れなどをするのだ。 朝の掃除が終わったばかりで、清潔な香りがするエステのサロンに入ると、音楽が流れていた。「患者さんにとってここは病院の〈外〉なんです。私との関係もエステティシャンと〈お客さん〉で、〈患者〉であることは忘れる空間なんです」と優しく話すドミニクさん。口紅や頬紅、マニキュアなどが陳列台に並んでいて華やかなのも、病院っぽさが薄い理由だろう。 このサロンは「病院内にビューティーセンターを」と運動を進めるCEW (COSMETIC EXECUTIVE WOMEN) 協会によって1991年に設けられた院内エステ・サロン第1号で、ドミニクさんは発足当時からのスタッフだ。CEWは1986年に設立された協会で、加盟者は、美容・ファッション業界、化粧品の広告を制作する代理店、化粧品のパッケージ会社などの重要ポストを占める女性たちを主体に170人、エステティシャンは5人いる。サロン内で使われる化粧・基礎化粧品類は加盟者の会社が寄贈する品だが、ブランド名はしっかりと隠されている。 このサービスが受けられる病院は今のところパリ市内と郊外にそれぞれ3カ所のみだが、「抗がん剤・放射線治療などで気が沈んだり不安に陥る患者にとって、再びきれいになったと感じたり、自分の体との調和が感じられることはとても重要」と、医師側からの評価も高く、現在15の病院が〈院内ビューティーサロン〉のリクエストを寄せている。協会としては、寄付金が集まり次第、要望に応えていくつもりだ。 「〈不必要なもの〉と思われがちな美容が、役に立っていると感じられるチャンスです。嬉しいですね。ガルシュ(パリ郊外)の病院は自動車事故の患者さんが多く、薬の副作用で顔に吹出物ができるので、ファンデーションで少し肌をなめらかに見せたりすると、それだけで患者さんの気分が変わったりするんです。人に見せるためよりも患者さん自身のためのメイクですね。一度メイクに来た女性が、それ以来毎日、自分でメイクをするようになったと耳にすると、自分に気をつかう余裕が少し出てきたのかな、と密かに喜んだりしています」とドミニクさん。医師、看護婦 (士)、精神科医、運動療法士などとチームで仕事をするなかで評価されるのも嬉しいことだそうだ。 「あと何よりも、患者さんとの関係が本物だということ」。エステの部屋で顔のマッサージをしてもらい緊張がほぐれると、患者さんもいろいろと話をしてくれるようになる。だから45分から1時間かけてひとりの患者さんの「お手入れ」をすることも多い。昨年は6病院で合計4500人の患者さんがこのサービスを受けた。男性にも顔のマッサージは評判が高い。「今晩、看護婦さんと会うことになってるので・・・」と肌のお手入れの予約を入れてくる人もいるそうだ。(美) *Centre de Beaute de CEW France 事務局 :14 rue Thiers 92100 Boulogne Tel : 01.4621.3275 Fax : 01.4621.1464 |
|