私は一九八二年以来パリに滞在する営業マン、現在失業中。いまも続いている不運な出来事は九一年にさかのぼる。
ある日、玄関のベルが鳴った。女性らしき声は「税務署より派遣された執行吏です」と伝える。室内にとおすと、彼女は椅子に腰かけ、「不動産債権の差押え」と書かれたオフィシャル・ペーパーに「〇」という数字を次々に書きつらねていった。私と家内は錯覚ではないかと不思議に思いましたが、合計額はなんと 二三 〇〇〇 〇〇〇フラン!
執行吏は「大家さんの娘さんが二三 〇〇〇 〇〇〇フランの借金を税務署に負っています」と説明し、「裁判所の許可を得て、今後家賃は直接税務署に支払って頂くことになりました。管理費は不動産管理会社へお払い下さい。ご心配なく、毎月の支払いに対してきちんと領収書を発行しますので」という。以来、私たちは毎月家賃を税務署に納入している。
が、悪夢はまだ終っていない。そのうちに税務署もこのステュディオを競売に出すことだろう。家内がこの住居を借り始めたのは一九七八年のこと。以来二一年間住んでいるのに、驚くことに私たちは大家と一度も顔を合わせたことがないのです。
家内は引越しの用意をしはじめ、段ボールは部屋中に積み重なるばかり。給与明細書もないいま、私たちはいったいどうやって、どこに引越せるのだろう。(K・T)
※読者のお便りをお待ちしています。