つい最近フランス国立近代美術館が入手したマイク・ケリーとトニー・アウスラーの「ザ・ポエティクス・プロジェクト」は本来、1997年にケッセルで開催されたドクメンタ展のために制作され、東京のワタリウム美術館でも展示された。
マイク・ケリーはアメリカ大陸とヨーロッパの過去10年間のアートシーンで、非常に重要な位置を占めるアーチストであり、とりわけ反ジェフ・クーン的である。というのは、クーンが作品の中でレーガン政権時代の新自由主義と世界市場の法則を賛美したのとは逆に、ケリーはアンダーグラウンド的存在であるばかりか、アメリカ文化への反逆の動きに身を置きながら国際的な評価を得たからだ。片やトニー・アウスラーは、ビデオ・インスタレーションが高く評価されている。
ケリーは1954年にデトロイトで、アウスラーは1957年ニューヨークで生まれた。アメリカのポピュラーカルチャーに内在する衝突や矛盾を探索し鋭く批判するのが共通点だ。カリフォルニアのCal Artsの学生だった1977年に、ふたりは実験的パンクロックグループ《ザ・ポエティクス》を結成し、6年間活動を続けた。現在展示されているインスタレーションは「ザ・ポエティクス・プロジェクト」のタイトルに明らかなように、ふたりの音楽体験が源になっている。壁に据えられたり、パネルに裏打ちされ床に立てられた絵や、あやしげな彫刻/塊の数々はすべて《ポエティクス》時代の彼らのノートやスケッチブックの中から再現された。いくつものビデオ作品が同時に序列なく上映される空間に、パネルが配置され、会場全体に《ポエティクス》のサウンドが漂う。ビデオは《ポエティクス》に影響を与えた人物(ジョン・ケール、アラン・ヴェガ、グレン・ブランカ、キム・ゴードン、リディア・ランチ、トニー・コンラッド、ダン・グラハム)のインタビューだ。インスタレーションはアメリカのパンク・ロックやアルターナティブの動きを今一度振り返ってみるよう誘いかけてくる。
ケリーは言う。「この作品は、歴史を構築する試みだった。それも、今まで〈書くに値しない〉と判断されてきたマイナーな歴史…。私たちの作品は《ポエティクス》の肖像というよりも、歴史をどのように書くかについての考察だ。パンクを歴史の流れのなかに収めようとすること自体が、意味の管理に対する戦争だってことを理解してもらいたい。戦争は今もまだ続いている、パンクの歴史はまだ石に刻まれたわけではないのだから」
(マルク / 訳:美)
*ポンピドゥー・センター4階の”Galerie du musee” で3月6日迄 (火休)
不毛な表現?Jour de Fete
ポンピドゥー・センターのリニューアルオープンを飾る展覧会。9人の招待作家は、いずれも60年代生まれで、21世紀のフランスアートシーンを担ってゆく世代だ。
P・マイヨとP・ラメットによる、キッチュな外観と内部の暗闇を対比させた「愛の空間」や、スパゲッティやトイレットペーパーを使ったM・ブラジーのインスタレーションをはじめ、現代というこの不毛な時代を表現したシニカルな作品が目立つ。それは、ある意味で成功している。人間性は完全に排除され、どの作品も、奇妙に明るく乾いていて、質量が感じられない。影のない空虚だけが、ただそこにある。それもひとつの表現ではある。が、かりにそれが意図的なものであるにせよ、作品自体の説得力が足りないために、単なる不毛の再生産に終っているものがほとんどだ。
そんな中で、F・ルコントの様々なイメージをのせて回転し続けるディスク群は、現代社会の象徴として、十分説得力があるし、思わず笑ってしまうP・ソランのユニークなミニチュア劇場は、一見馬鹿馬鹿しく見えて、実は、彼の内面世界が非常に繊細に表現された、今回最も真摯な作品といえるだろう。(チ)
*ポンピドゥー・センターで2月28日迄 (火休)
●Stella SNEAD (1910 – )
英国人。1938年 N.Y.でエルンストらに会いシュルレアリスムに加わる。50年以降フォト・コラージュ、87年絵画に復帰。2/12迄
Galerie Minsky: 46 rue de l’Universite 7e
●”Nous nous sommes tant aimes”
国立高等美術学校91~97年度卒業生の中から外国人を含む21人の多岐にわたる作品を紹介。2/13迄(13h-19h 月休)
同校展示会場 : 13 quai Malaquais 6e
●オランダ・グラフィック・アート
現代グラフィック・デザイナー約50人の90年代の作品をポスターやオブジェで追う。2/20迄 (13h -19h、月休)
Institut Neerlandais:121 rue de Lille 7e
● Max BECKMANN (1884 – 1950)
第1次大戦の痕跡をとどめる20年代前後の混沌とした社会風俗を版画に。2/26迄
Galerie Tendances : 105 r. Quincampoix 3e
●アール・デコ家具展
Printz、Dunand、Dupre-Lafonらによる20~30年代の家具他。2/26迄
Galerie J.J.Dutko : 13 rue Bonaparte 6e
● Henri CARTIER – BRESSON (1908 – )
1926~99年の写真92点。2/26迄
Galerie C. Bernard :7 r.des Beaux-Arts 6e
●<アフリカ女性の顔>
Dominique Darbois 撮影のアフリカ女性の祭、儀式の際の化粧の写真や女性像の木彫、オブジェ等。2/26迄
Galerie R. Lemarie : 23 rue du Renard 4e
● Raoul DUFY (1877 – 1953)
フォーヴ期の油彩や30年代の水彩、20~40年代のデッサン、グワッシュ他。3/11迄 Galerie Guillon-Laffaille: 4 av Messine 8e
● Francois MORELLET (1926 – )
“πrococo”と題し、小数点以下が無限に続くπ(円周率) の曲線でブルーのネオンを壁面や樹木に這わせる。3/5迄(月休)
Mus仔 Zadkine : 100bis rue d’Assas 6e
● Vladimir VELICKOVIC (1935 – )ベオグラードに生まれ1966年以降パリで制作。”Feux”と題し爆撃の炎に燃え上がる殺戮の跡、群がるカラス、闇に浮かび上がる屍‥‥、大小計20点。2/29迄(日休)
Galerie M. Hoss : 12 rue d’Alger 1er
●Paul LANDOWSKI (1875 – 1961)
作曲家 Marcel LANDOWSKI の父。写実主義派アカデミックな彫刻で有名、多くの記念碑や像を残す。3/5迄 プティパレ
同時展「デッサン」Musee Landowski :
14 rue Max – Blondat Boulogne-Billan-
court (水土日 :10h-12h/14-17h)
●犯罪者の調書写真<1860~1930>
パリ・コミューン以来司法警察が撮影した容疑・逮捕者の写真は10万枚以上。犯罪者カードの正面・横顔写真や犯罪者の上半身写真等。3/26迄 (月休)
Hotel de Sully : 62 rue St-Antoine 4e
●Joel-Peter WITKIN.<弟子と師>
20世紀初頭の Man Ray、Brassai ALewis Carroll他の作品とWitkinの写真をテーマ別に対峙させて展示。3/26迄 (同上)
● JAWLENSKY (1864 – 1941)
ロシア人。1924年カンディンスキー他と前衛集団「青騎士」を結成。「聖人の顔」シリーズを含む回顧展。3/31迄(月休)
Musee de la Seita :12 rue Surcouf 7e