若手服飾デザイナー、カズコさんのアトリエはモンマルトルの静かな通りにある。 “クロト” と書かれた小さな手作りの看板が掛けられたドアをノックすると、カズコさんが素敵な笑顔で迎えてくれた。
アトリエ兼住居のステュディオには、マヌカン、裁断机、縫いかけの服、彼女が旅先でみつけたランプ、植物などがあり、それらの調和は彼女独特の世界をかもし出している。
1991年に渡仏し、グラフィックの専門学校に入る。フランスに対する憧れがあったわけでもなく、好きなデザイナーがフランス人だったわけでもなかったが、最初は2年の滞在予定だったのが早や7年。「フランスの時間の流れ、ゆっくりしていて好きなように使えるところや情報が選べるところが気に入っています。フランスはあらゆる意味で便利。生地が買いやすいし、なによりも小さい規模でもやっていけるところがいいですね。」
今はコレクションの時期で、毎日一着のペースで制作をしているという。朝、パターンを引いて、午後の頭に用事を済ませた後、朝引いたパターンを裁断して縫う。余裕があればお茶でもしながら今後の計画を練る、というのが最近の生活パターン。毎シーズン目標を一つ決めて制作をするそう。ちなみに今回の目標は「売れても売れなくても自分のやりたいことを徹底する」。
彼女の服作りのコンセプトを聞いてみた。「好きなものを一つずつ大切に作ること。優しめの服、手のぬくもりが残っているような…。素材そのものが感じられるものが好きだから。」蚤の市や旅先で見つけたオブジェなどに影響を受けるそう。特に旅は彼女にとって欠かせない発想の根源となっているようだ。「色んなところで色んなものを見て刺激を受け、吸収したことからテーマを見つけます。今、仕事ばかりで家にこもっているのは残念。外に出て刺激を受けたい!」「将来の夢は?」という質問に対して「快適な生活!」というカズコさん。「洋服だけにウェイトを置いた生活ではなくて人間的に楽しむことが大切。楽しみながら制作できる環境がほしい。後は、やはり旅行がしたいです。」
目標に向かってマイペースに努力するカズコさんの瞳には、アーティストに共通の輝きがあった。(ア)