飛躍した論理で科学的証拠がないことを書いた本は、俗に「トンデモ本」と呼ばれる。フォンクベルタ展にあるのは、作者が意識して作った「トンデモ」物語だ。早い話、すべて捏(ねつ)造・偽造なのだが、科学的証拠も捏造し、見る人の意識をかく乱させ、本当にあったことなのではないかと思わせるに至る、実に手の込んだトンデモなのである。
まず、『人魚 Sirènes』。フランスの洞窟で1947年、カトリックの神父が、1800万年前の複数の人魚の化石を見つけた。科学界からは疑問も出たが、今では本物と認められたという説明が、岩に張り付いている人魚の化石の写真についている。
『ウサマ解体 Déconstruire Oussama』は、ビンラディンの右腕だった男が、悪いテロリストの役を演じるためにどこかの諜報局か何かに雇われていた俳優であることが、同行したジャーナリストの調査でわかったという話。
『動物相 Fauna』は、世にも不思議な動物を世界中で発見し、生物学的に分類していたドイツ人学者の資料をフォンクベルタが発見したという話。学者が撮った動物の写真に学術名、発見地域、様相などが記されている。足が12本ある蛇のレントゲン、学者の古い日記まである。極め付きは、インタビューに答える学者の妹で、ビデオの中で「資料が世に知られたことで、マスコミの対応に追われている」と語っている。
フォンクベルタ(1955-)はスペインのカタロニア生まれ。フランコ独裁を経験し、大学卒業後は広告代理店で働いたことがある。大学教授、アーティスト、作家など多彩な顔を持つ彼は、写真に写ったものは事実であるという通念を逆手にとり、それを偽造することで人間がいかに洗脳されやすいかを見せている。
ありもしなかったことを捏造することと、起こった事実を隠ぺいすることは、どちらも情報操作である。戦時中の日本政府と日本のマスコミも、戦地で負けているのに、国民には勝っているように見せかけるという情報操作を行った。きな臭くなりつつある今の世の中で、自分がだまされやすいことを自覚するためにも、ぜひ見てほしい展覧会である。(羽)
Maison Européenne de la Photographie :
5/7 rue de Fourcy 4e M° St-Paul 3月16日迄。月火休。
画像:«Fauna» Solenoglypha Polipodida, 1985
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© Joan Fontcuberta