4年に一度の単独無寄港世界一周ヨットレース〈ヴァンデ・グローブ〉は、極洋の氷山の間を航行したり、荒天が多い難所、ホーン岬を回ったりと、ヨットレースの中でも一番困難なレースとして知られている。1月27日、レ・サーブル・ドロンヌ港にトップで到着したのは、フランソワ・ガバール。29歳という最年少の優勝
で、78日2時間16分という新記録。ゴールを切ったヨット上で恋人のへンリエットさんと抱き合う姿に周りから大きな拍手がわいた。彼を歓迎するために波止場に詰め寄せた数千人のファンが「ブラボー! フランソワ」と声を揃え、船首に立ったガバールは感涙にくれた。
「このレースは常に厳しく、息つく暇などなかったですが、自分について、そして人間の体が、人間が、これほど素晴らしいことを実現できるということを学びました」というのがゴール直後のコトバだった。「意気消沈するのはしょっちゅうでしたが、それは当たり前。人生でもそう。ただレース中はそれがもっと誇張されるだけ」。そして翌日。「6時間ぐっすり眠って、今朝は6時に起きました。お湯を沸かしてお茶を入れ、椅子に座って思ったのです。素晴らしいなあ。動いていない。体も濡れていない、とね」
フランソワ・ガバールは、1983年3月23日、シャラント県のサンミシェル・ダントレーグで生まれる。6歳から7歳にかけて家族で、カナリア諸島、カーボベルデ、西インド諸島、米国と1年間航海したことが、彼の生き方に大きな影響を与えたようで、14歳の時には、オプティミスト級セーリングのフランスチャンピオンになっている。エンジニアの学校に通うかたわら、ヨットへの情熱は止むことを知らず、20歳の時にはカタマランのトルネード級のジュニア世界チャンピオン。そして2009年には、国際的な大西洋横断レースで2位になり、〈ヴァンデ・グローブ〉参加への夢がふくらむ。そしてその「一番クレイジーな」夢が、優勝という形で実現した今、これからは? と聞かれて、「また〈ヴァンデ・グローブ〉に挑戦するかは、わかりません。数年間かかって蓄えたエネルギーをこの3カ月の航海で使い果たしてしまいました。でも夢は、ほかの夢をはぐくむ、と信じています。このレース中にこうした夢のほう芽を見たと思う。これからの数年間で、この夢を大きくしていきたい」(真)