今、ヨーロッパ写真美術館で開催中の展覧会は、すべて見ごたえがある。中でも素晴らしかったのが、ジェーン・エヴリン・アトウッド展だ。
アトウッドは在パリ40年のアメリカ人。彼女が扱う題材は重く、ヘタをするとセンセーショナルなものに陥ってしまう危うさがある。そうなっていないのは、写真家としての使命感の強さと、一つのテーマを長く追う過程で生まれる謙虚さによるところが大きいだろう。
盲目の双子の若い女性が、同じ服装で手をつないで立っている。モード雑誌のモデルかと見まがうほど美しい。しかし、彼女たちを知ろうとすると、他の人には知りえない何かが二人から発散され、壁に突き当たったように感じる。人の見方について問いを突きつけられるような作品だ。アトウッドはこのシリーズで、1980年に、人間性を重視した写真家に贈られるユージン・スミス賞の第1回目を受賞した。
地雷で手足を奪われた人々の写真、エイズで亡くなった男性を入院までの2カ月一緒に暮らして撮ったシリーズを見ていると、彼らが自分のそばにいるような錯覚に陥る。被写体となった人たちの人生を、彼らと関わりながら、アトウッドも生きている。それが見ている私たちに伝わり、私たちもその作品を通して、彼女の体験を追体験する。
レアール界隈の娼婦に惹かれ、彼女たちの許可を得て、行きつけのカフェや路上で朝まで過ごして撮影した作品には、猥雑(わいざつ)さも覗き見趣味もない。場の匂い、女たちの生活の匂いが立ち上っている。
圧巻は、10カ国の刑務所で過ごす女囚たちを9年間にわたって撮ったシリーズだ。時間のない人はこれだけでも見てほしい。刑務所で手錠をはめられたまま出産する女性、同じ罪で入所した伴侶と面会時に境界越しに抱き合う女性、檻(おり)の中で1日30分だけ散歩を許された女性、刑務所で生まれた赤ん坊、刑務所で必要な薬を与えられず、発作を起こして亡くなった女性の遺体にすがる夫…女囚たちが人間の尊厳をもって扱われることを訴えるアトウッドの気持ちが伝わる力作だ。(羽)
Galerie in cameraでも個展を同時開催。
21 rue Las Cases 7e 9月24日迄
La Maison Européenne de la Photographie
Adresse : 5-7 rue de Fourcy, 75004 paris月火祝休 9月25日迄