
演劇界出身でアイルランドの血を引くマーティン・マクドナーは、映画界で華麗な転身を遂げた人。ベネチア映画祭と相性がよく、参加したら必ず賞をもらって帰る監督だ。米アカデミー賞で台風の目になった 『スリー・ビルボード』(2017年)はベネチアで脚本賞、『イニシェリン島の精霊』(2022年)でも脚本賞と男優賞を受賞した。
最新作『Wild Horse Nine』も、やはりジョン・マルコヴィッチが男優賞に輝いた。マクドナー作品には偏屈人間がよく登場するが、彼らは一筋縄ではいかない奇妙な存在感を放つ。それが面白くもあり、今回もその例に漏れない。

時は1973年。クリス(ジョン・マルコヴィッチ)はベテランのCIAエージェント。ともにチリのクーデター計画に関わった年下の同僚リー(サム・ロックウェル)と、イースター島に派遣された。現地では反体制派の若い女性たちの知己を得る。
モアイ像が並ぶ孤島で、クリスは自伝の口述筆記を続ける。彼は病に冒されており、もはや達観の域。JFK暗殺といった世界の裏側を知りすぎた彼の言動に、CIA長官はヒヤヒヤ。彼を邪魔者扱いし始めたようだ。
我々の現実世界において、JFK暗殺は「単独犯行」が米政府の公式見解。が、劇中では陰謀論のはずの設定を、ブラック・コメディを加えながら、しれっとドラマに滑り込ませている。オリヴァー・ストーンの『JFK』ほどの仰々しさはなく、犯罪スリラーと友情譚が交錯する人生の黄昏のドラマに仕立てた。ぶつかり合いながらも、結局は仲の良い男二人の冗談めいたやりとりも見どころ。世界は依然として陰鬱な場所だが、ほんの少しの希望も見え隠れ。マクドナーは感謝を込めてか、ベネチアの地に花を持たせた。(瑞)

