
首相任命の翌朝、9月10日付新聞「ルコルニュ氏のハイリスクの任務」「最後の弾」など。
国民議会で信任決議を否決されたバイルー首相の辞任を受けて、マクロン大統領は翌9月9日、ルコルニュ軍事相を後任の首相に任命した。共和党(LR)を除く野党は、まったく民意を組んでいないと一斉に反発した。
ルコルニュ氏(39)は大統領の側近中の側近と言われ、昨年12月にバルニエ首相の後任として有力視されていたが、バイルー氏が自身の中道Modem党の与党連合離脱をほのめかして首相の座を手に入れたと言われる。ルコルニュ氏は10代から共和党の前身である右派政党UMPに加わり、28歳でノルマンディー地方のウール県議会議長に。ルメール元経済相に引き立てられて2017年に入閣。エコロジー移行や地方公共団体などの閣外相を歴任。2019年の「黄色いベスト」運動の際に各市町村に“陳情ノート”の設置を大統領に進言したことで大統領に認められるようになったという。その後は海外領土相、軍事相(2022年~)に昇格し、ウクライナ戦争勃発後は大統領の意向を受けて軍事予算の増強や軍事産業振興に尽力した。

ルコルニュ氏は左派から極右までを相手にした交渉能力に長けているという評判もあるが、2024年6月の解散総選挙により国民議会で過半数割れしたあとも、少数与党となった与党連合と右派LRから首相を任命し続けるマクロン氏への野党の反感は強く、それを払拭するのは不可能だろう。とくに左派諸党は猛反発しており、服従しないフランス党(LFI)のメランション氏は「国会軽視の悲劇」と揶揄し、大統領の辞任を再度促した。エコロジストも「挑発」「国民軽視」などと批判。社会党は、「社会の正当な怒りを買うリスクを選んだ」と非難し、ルコルニュ内閣には加わらないことを強調しつつも、公正な税制、社会的公正を実現する政策でこれまでの政府と一線を画すなら次の内閣の不信任案には投票しない可能性もあるとした。野党のなかでLRだけは歓迎の意を表したが、極右の国民連合(RN)はある一線を超えれば不信任案で対応すると釘をさした。
マクロン大統領は新首相にまず来年度予算について各党の意見を聞いて調整するよう求めており、組閣はその後としている。ところが、先のバイルー内閣は緊縮予算案のために不信任となっており、予算案で野党と妥協点が見出せる保証はない。昨年のように来年度予算なしで年を越すのか?いずれにしても、わずか3年余りですでに5人目の首相。ルコルニュ氏が前任者たちの二の舞にならないとは言えず、政局は混迷の色を深めている。(し)
