プラスチックによる環境汚染に対処するための国際条約の策定を目指す政府間交渉会合がスイス・ジュネーブで8月5日から行われたが、会期を1日延ばした最終日の15日も合意に至らないまま閉幕した。仏エコロジー移行相のパニエ=リュナシェ氏は強い落胆と怒りを露わにした。
この会合は、2022年に国連環境計画(UNEP)がプラスチックの国際的な規制のための条約作成を政府間交渉委員会に委任したのを受けて発足。2024年末の韓国・釜山での会合では合意に至らず、今回185ヵ国の代表を集めて開催された。プラスチック汚染減少のため、その生産制限を主張する欧州連合(EU)、カナダ、南米やアフリカ、太平洋の多くの国々に対し、サウジアラビアを筆頭とするアラブ産油国、米、露、イランらは生産制限に反対。パニエ=リュナシェ氏は、「人々の健康や経済の持続性よりも、目先の経済利益のために、一握りの国々が条約締結を麻痺させている」と強く批判。仏は6月にニースで開催された国連海洋会議でもプラスチック規制についての“野心的な条約”を目指すアピールを打ち出し、96ヵ国の賛同を得た。仏国立科学研究所(CNRS)微生物海洋学部門の責任者ジャン=フランソワ・ジグリオン氏は「汚染を減らしたいなら、生産を減らすべきなのは明白なこと」と言う。
懸念される人体への悪影響
プラスチックによる環境汚染問題は海洋汚染をはじめとして近年大きな問題になっている。2000年以降の世界のプラスチック生産量は、それに先立つ50年間よりも多く、経済協力開発機構(OECD)によると、このまま増えれば2060年には現在の年間4億4500万トンの3倍になる試算だ。しかも現在、世界全体で10%しかリサイクルされていない。この条約の策定に参加する科学者たちは、人体への有害性も明らかで、プラスチックへの添加物、着色料、可塑剤なども環境と人体に危険である可能性が高いという。OECDは発展途上国ではリサイクルに1000億ドル、プラごみの収集向上に600億ドルの投資が必要だと2023年に試算している。
他方で、仏ネットメディア「メディアパルト」は8月9日、ネスレ社のミネラルウォーター「コントレックス」と「エパール Hépar」に、それぞれ1リットルあたり515個、2096個の粒子という非常に高い濃度のマイクロプラスチックが検出されたとの捜査情報を暴露した。これは通常の川や湖の5万倍から130万倍の濃度という。マイクロプラスチックとは、微細な(5mm以下)プラスチックごみの総称で、近年は海洋生態系への影響が懸念されているほか、人体にも有害とされる。この汚染はネスレがプラごみをヴォージュ地方の採水所の近くに不法投棄していたためとされ、現在捜査が進んでいる。このようにプラスチック廃棄物の汚染問題は仏では急務とみなされているだけに、今回の会合で合意に至らなかったことへの落胆はいっそう大きいようだ。(し)
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