
中高一貫のカトリック校で生徒に対する暴行や性的暴行があったベタラム事件に関して5月14日、バイルー首相は国民議会調査委員会で5時間半にわたる聴取を受けた。だが、首相がこれまでの発言を明確に正すことはなく、自己防衛的な姿勢が目立った。
べタラム事件とは、ピレネー・アトランティック県のカトリック系中高一貫校ノートルダム・ド・べタラムで1955- 2010年に聖職者や教師らによる生徒に対する暴行や性的暴行があった件で、告訴を受けて昨年2月に捜査が開始されたが、今では告訴数は100件以上といわれる。加害者が死亡したり、時効になったりするケースが多いこの事件で問題になったのは、1995~96年当時、教育相(1993~97年)だったバイルー首相が事件を知らされていたのに何もしなかったという同校教師らの証言が今年2月に報じられたことだ。首相はこれを否定したが、バイルー氏の息子や娘が同校に在籍していたこともあり、同県の県会議長やポー市長など長く地元の行政の重鎮だった首相が何も知らなかったことはありえないという声が巻き起こった。
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国民議会の文化教育問題委員会は(捜査中の事件を直接に扱うことはできないため)、2月下旬、学校内の暴力に対する国の対応についての調査委員会の設置を決めた。同委員会の「服従しないフランス党(LFI)」のポール・ヴァニエ議員とヴィオレット・スピユブ議員(中道の再生党)が報告者として聴取の準備を行ない、4月から関係者への聴取が始まった。
首相は以前は、同校で生徒が殴られた件以外の性暴行があったことは全く知らなかったと発言していたが、14日の調査委でも10歳未満の男児への強姦容疑で被疑者になったカリカール神父の件などメディアで報じられた(97年終わり)事件以外は知らなかったと繰り返した。同神父の件では、当時捜査を担当したミランド予審判事が、捜査初期段階で近所に住むバイルー氏が自宅を訪ねてきて話したと証言。同氏はそれに対し、この訪問については覚えていないとし、別の日に短い会話を交わしたと記憶していると発言。これについては首相の娘のエレーヌさんが、父親が判事宅を訪れたことをメディアに話している。調査委でも証言した同校の数学教師フランソワーズ・ギュランさんは1995年3月の行事の際にバイルー氏に暴行問題について警告したと証言。同氏はこれを同教師の作り話だと反論。また、カリカール神父の強姦容疑捜査中の98年に当時県会議長だったバイルー氏が捜査を見直すよう検事(故人)に申し入れたと当時の警官が調査委で証言している。同氏はこれを真っ向から否定した。

こうした首相の回答に対し、ヴァニエ議員はこれまでの首相の発言が一貫しておらず、「責任逃れ」をしていると批判。社会党議員からも首相の回答は正確でなく、混乱があるとの批判も上がっている。首相は聴取の席で、委員会は自分を辞任させようとしていると反発する場面もあった。実際に左派議員からは本来のベタラム事件から外れて政治責任を問う質問があるなど、終始緊迫した空気が漂った。
こうしたなか、ベタラム事件の被害者団体の広報担当アラン・エスケール氏は、首相聴取は一つの段階にすぎないとコメント。学校や社会の沈黙、通報しても取り上げられないなど集団的な責任があるとした。被害者団体は未成年への性的暴行罪についての時効制度の改革、犠牲者を支援する制度の創設などを要求している。首相は今回の聴取でベタラム事件について専門家委員会と犠牲者委員会を設立したいと発言したが、それが本当に実現するとしたら、被害者団体にとっては一つの成果になり得るかもしれない。委員会の最終報告書は6月末に出る予定だ。(し)
