昨年12月に大型サイクロンの被害を受けた仏海外県マヨットの再建を促すための法案が1月20日から国民議会で審議される。同県は今月12日にも熱帯性暴風雨に見舞われ、洪水などのさらなる被害が出た。
インド洋に浮かぶマヨット島は先月14日、90年ぶりともいわれる大型サイクロン「チド」が直撃。最大瞬間風速が時速200kmを超える暴風と豪雨に見舞われ、市街地周辺にあるバラック集落がなぎ倒されるなど大きな被害が出た。多くの道路は通行が困難になり、小中高校の4割は使えない状態に。水道は断水、1万5000世帯が停電になった(1月4日時点で7割復旧)。
当初、フランソワ=グザヴィエ・ビューヴィル知事は「死者は数百人、あるいは数千人に達する可能性がある」としたが、隣国コモロ連合などから来てバラックに住む不法移民の数を把握するのは困難なため、犠牲者数は不明だ。12月末時点で当局は死者39人、行方不明者が約40人、負傷者5800人という暫定的数字を出した。物的損害は現時点で6.5億~8億€と試算される。
バイルー首相は30日になってやっとヴァルス海外領土相、ボルヌ教育相らとともに島を訪問し、マヨット復興2ヵ年計画を打ち出した。それによると、1月末までに全世帯に電気復旧、学校の早期再開、政府保証付きの個人向け特別融資制度、企業には5年間の免税措置を設けて企業活動の活性化を促す。さらに、地元議員と協議の上、3月にはマヨット再建計画法案を策定するとした。こうした復興計画の第1弾として、学校や住宅などのインフラ再建を促進、加速化するために都市計画や公共事業の諸規則の例外措置を今後2年間認め、国が地方自治体に代わって学校を再建することなどを定めた緊急再建法案が20日から国民議会で審議される。
マヨットの地元議員や、被災地を訪れた国民連合のマリーヌ・ルペン氏は不法移民問題を解決しなければすべては無駄になると政府のやり方を批判した。これに対し、ヴァルス海外領土相は、マヨット生まれの子どもが仏国籍を取得できる条件を厳しくする法案を3月に提出すると発言。地元議員は、住民32万人に対して10万人の不法移民がバラックなどに住んでいることが問題とし、外国人児童の就学義務を廃止し、国外退去を促進する取締まり強化策を中央政府に求めている。
こうした甚大な被害が出たのは、サイクロンの威力のせいばかりでなく、貧困や貧富の格差のためだと指摘する専門家もいる。水道管の老朽化に加えて降雨量減少により水が不足し、水の使用が大幅に制限される事態が2016年頃から繰り返し起き、2020年頃からより頻繁になっていることや、気候変動に伴って自然災害が深刻化することを知りながら国は何ら対策を講じていないと指摘する。
マクロン政権は2020年以来、マヨットの発展、インフラ整備、移民管理のための法案を約束していたが、実現されていない。大統領は12月19日にマヨットを訪問した際、「マヨットがフランスでなければ、あなたたちは1万倍もひどい目に遭っていただろう」と発言した。2018年以降は、暴力、治安悪化、コモロ移民流入に対する抗議運動が頻繁に起き、ゼネストに発展する事態になって、23年に中央政府が警官や憲兵1800人を動員してバラック破壊と強制送還作戦を展開したことは記憶に新しい。住民の77%が貧困線以下の暮らしをしている最貧県といわれるマヨットは本当にフランスであることの恩恵を被っているのだろうか。むしろ本土並みの基本的な生活保障から置き去りにされているのではないだろうか。(し)